80時間を超える残業は違法なのか? 過労死を避けるための対処法

2022年12月13日
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80時間を超える残業は違法なのか? 過労死を避けるための対処法

滋賀県が公表している労働時間に関する統計資料によると、令和3年の事業規模30人以上を対象にした総実労働時間は、135.6時間でした。また、所定内労働時間は124.6時間であり、所定外労働時間は11.0時間です。

会社から過大な業務を押し付けられてしまった場合には、残業をしなければ業務を処理することができず、毎月のように長時間の残業を余儀なくされることがあります。残業が一時的なものであればよいのですが、毎月80時間を超える残業となっている場合には、過労死などの健康被害が生じるリスクもありますので注意が必要です。

本コラムでは、80時間を超える残業の違法性と過労死を避けるための対処法について、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。

1、月80時間の残業は違法?

まず、残業時間の法規制について、概要を解説します。

  1. (1)法定労働時間とは

    法定労働時間とは、労働基準法32条によって定められている労働時間のことをいいます。労働基準法32条では、1日8時間、1週40時間を法定労働時間と定めており、法定労働時間を超えて労働者を働かせるためには、使用者と労働組合などとの間で三六協定を締結して、それを所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません(労働基準法36条1項)。

    法定労働時間を超えて働いた場合には、時間外労働となるため、法定の割増率によって計算をした割増賃金が支払われることになります。

  2. (2)残業時間の上限規制

    三六協定の締結および届け出によって、時間外労働を行うことが可能になりますが、上限なく残業をさせられるわけではありません。残業時間には、上限が定められており、月45時間・年360時間を超える残業は違法となります(労働基準法36条4項)。
    ただし、残業時間の上限規制には、例外が設けられており、一定の要件を満たした場合には、残業時間の上限規制を超えて残業を命じられることがあります。

    例外的に上限規制を超えて残業することができるのは、通常予見することができない業務量の大幅な増加によって臨時的に上限時間を超えて労働させる必要がある場合です。
    このような場合は、特別条項付きの三六協定を締結することで、月45時間、年360時間という残業時間の上限規制を超えた残業が可能になります。

    ただし、上記の要件を満たしても、無制限に残業をさせられるというわけではありません。特別条項付きの三六協定を締結していた場合であっても、残業時間には以下のような規制があり、これらの規制が一つでも守られていないと違法な残業となります

    • 時間外労働が年720時間以内
    • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
    • 時間外労働と休日労働の合計について、2カ月平均、3カ月平均、4カ月平均、5カ月平均、6カ月平均がすべて1月あたり80時間以内
    • 時間外労働が45時間を超えることができるのは、年6カ月が限度
  3. (3)月80時間の残業の問題点

    原則的には、残業時間の上限は、月45時間・年360時間です。
    そのため、月80時間も残業をしているという場合には、残業時間の上限規制に違反していることになります
    例外的な事情があれば、特別条項付きの三六協定を締結することによって、残業時間の上限は拡大されますが、その場合であっても残業時間が月45時間を超えることができるのは年6回まで、残業時間は年720時間までといった上限があります。
    「ある月だけで業務が忙しくて月80時間の残業となってしまった」という状況ではなく、1年を通して毎月80時間近い残業が行われているという状態にある場合は、特別条項付きの三六協定を締結していたとしても違法な長時間残業となります。

2、月80時間の残業は過労死ライン

以下では、月80時間という残業時間が過労死ラインに匹敵するものであることを解説します。

  1. (1)過労死ラインとは

    過労死ラインとは、脳・心臓疾患や精神疾患などの健康障害のリスクが高まる時間外労働時間のことをいいます

    長時間におよぶ過重な労働を強いられた労働者は、疲労の蓄積やストレスなどによって、脳血管疾患・心臓疾患を発症することや、強い心理的負荷による精神障害を原因として自殺をしてしまうことがあります。
    過労死ラインは、このような健康障害リスクと時間外・休日労働時間との関係を数値化したものといえます。

  2. (2)月80時間の残業は健康障害リスクが高くなる

    過労死ラインによると、発症前1カ月間におおむね100時間または発症前2カ月から6カ月間にわたって、1カ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と健康障害発症との関連性が強いと評価されることになります。

    このように、過労死ラインでも、月80時間の残業は健康障害が生じるリスクが高いと判断されます
    毎月80時間もの長時間の残業を命じられている労働者の方は、健康被害が生じる前に、会社に対して、長時間残業の解消を求めていく必要があるでしょう。

3、労働条件に違法性がある場合はどうするべきか

以下では、残業時間の上限規制に違反する違法な長時間労働が行われている場合の対処法を解説します。

  1. (1)労働基準監督署に相談をする

    労働基準監督署では、会社が労働基準法などの法令に違反している疑いがある場合に、労働者からの相談や申告を受け付けています。
    具体的には、労働者からの相談や申告を踏まえて、会社に立ち入り調査をするなどして、必要に応じて再発防止や改善のための指導や是正勧告などが行われるのです。

    月80時間もの長時間残業が行われている場合には、労働基準法が定める残業時間の上限規制に違反している可能性があります
    現状の労働環境を改善するためにも、所轄の労働基準監督署に相談をしてみるとよいでしょう。

  2. (2)会社に対して残業代を請求する

    月80時間もの残業が行われている場合、労働者に支払わなければならない残業代も非常に高額なものになります。
    しかし、違法な長時間労働をさせる会社では適正な残業代が支払われていないことが多いため、未払いの残業代が存在する可能性があるでしょう。

    労働者には、未払いの残業代の支払いを会社に対して請求する権利があります。
    ただし、給料日の翌日から3年以内に請求をしなければ、残業代を請求する権利は時効によって消滅してしまいます。
    長期間残業代の未払いが続いているという場合には、請求する権利が消滅してしまう前に、早めに対応するようにしましょう

4、未払いの残業代を請求する方法

以下では、会社に対して未払いの残業代を請求する方法を解説します。

  1. (1)証拠収集

    残業代を請求する場合には、労働者の側で残業をしたということおよび具体的な残業時間を証明していかなければなりません

    残業代を請求するための代表的な証拠はタイムカードです。
    しかし、サービス残業を強いられているような状況であれば、タイムカードでは正確な残業時間の立証が難しい場合もあるでしょう。
    タイムカードが証拠として用いられないような場合には、以下のような証拠によっても、残業時間を立証することができる可能性があります。

    • 業務日報
    • パソコンのログイン・ログアウト記録
    • パソコンのメールの送信記録
    • 入退室記録
    • 交通系ICカードの記録、帰宅時のタクシーの領収書
    • 日記、メモ
  2. (2)残業代の計算

    残業代を請求する証拠が集まったら、次は、会社に対して請求する残業代の金額を計算しましょう。
    残業代の計算は、「1時間あたりの賃金×割増率×残業時間」という計算式によって計算をしていくことになります。そのため、それぞれの要素を正確に理解していなければ、適正な残業代を算出することができません。

    弁護士に依頼すれば、労働者に代わって、残業代について正確に計算してもらうことができます

  3. (3)会社との話し合い

    会社に対して残業代を請求する場合には、いきなり裁判を起こすのではなく、まずは話し合いによって解決を試みることが一般的です。
    労働者の側で計算をした未払いの残業代について、会社に説明するとともに、その根拠となる証拠を提示して、残業代を支払うように求めましょう。

    ただし、会社と労働者では、労働者の方が圧倒的に不利な立場にあります。そのため、労働者本人が会社と交渉を行っても、対等に交渉することが難しい場合も多々あります。
    会社と交渉する際には、弁護士に代理人を依頼することをおすすめします

  4. (4)労働審判・裁判

    会社との話し合いでは未払いの残業代に関する問題が解決しない場合には、労働審判や裁判といった裁判所の手続きを利用することになります。
    労働審判は、裁判と異なり、非公開で行われる手続きです。
    また、労働審判は、原則として3回以内の期日で審理を終えることになっているため、迅速かつ柔軟な解決が期待できます。

    もし、労働審判の内容に不服がある場合には、異議申し立てをすることによって、訴訟手続きに移行することになります。
    裁判となった場合には、労働者の側で残業したことおよび残業時間などを証拠に基づいて主張や立証をしていく必要があります。
    裁判においては法律の専門的な知識が不可欠になるため、基本的に、弁護士に依頼することになります

5、まとめ

月に80時間以上の残業をさせられているという場合には、違法な残業である可能性があります。
また、月80時間以上の残業は、健康障害が生じるリスクが高い長時間労働となります。会社に対しては、早めに環境改善を求めるとともに、未払いの残業代がある場合にはしっかりと請求していく必要があります。

会社に対する残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています