「残業代は出ないのが当たり前」は本当? 未払い残業代を請求するには
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令和元年1月、滋賀県立総合病院が医師や事務職員を時間外労働の上限を超えて働かせていて労働基準監督署から是正勧告を受けていたことがわかりました。また、この病院では看護師に対して残業代の未払いもあったといいます。
サービス業に従事している方などは、「残業代なんて出ないのが当たり前だ」と考えている方も少なくないでしょう。しかし、雇用主が残業代を支払わないのは違法です。
本記事では、残業代がなぜ出ないのか、その理由を探るとともに残業代の請求の仕方についても滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。
1、残業代はなぜ出ないのか
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(1)働き方改革や業績悪化の影響
平成31年4月より、働き方改革関連法(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が順次施行されています。
厚生労働省が主体となった働き方改革により、各企業で労働生産性の向上が求められ、定時の範囲内で業務を行うことが推進されています。それにともない、残業が発生していても、定時でタイムカードに退社の打刻して社内で業務を続けたり、仕事を自宅に持ち帰る人が増えました。
また、景気の動向や社会情勢によって中小企業を中心に影響を受け、業績の悪化や残業代の未払いにつながっています。
たとえば長引くコロナ禍によって、休業や営業自粛を迫られた業界・業種では、さらに経営環境が悪化しています。
従業員にコストがかけられなくなり、1番手をつけやすい残業代から削ってしまうことが頻発しているのです。 -
(2)残業代の未払いが発生しやすい業種とは
残業代が未払いになりやすい傾向の業界・業種があります。
<建設業>
建設業界では、オリンピック需要による建設ラッシュで業務量が増加していますが、三六協定(労働基準法36条に基づく労使協定)からは除外されています。
施工管理者や現場監督は管理職手当などの手当が残業代替わりと言われることがあるようです。
<運送業>
運送業では荷物の積み込みや客を待機するための手待ち時間が発生します。
この待機時間が所定労働時間外であれば残業時間となりますが、休憩時間とみなされ残業代が発生しないケースが多くあります。
<サービス業>
飲食店や小売店、エステティックサロンなどでは、始業時間・終業時間の前に準備や後片付けなどが発生します。また、美容業界など技術や知識の修練が求められる職種では、業務時間外に練習や研修を行うことが常態化しています。
そのような時間も本来残業時間として扱われるべきでしょう。
<情報通信業>
IT関係やメディア関係の企業では、裁量労働制や固定残業代制などの労働時間制をとっているところが多く、出勤時間や労働時間は個々の裁量にまかされる傾向があります。
<保育士>
保育士は日中には業務として子どもの相手や世話で忙しく、学校行事などで制作物を作る際は、家に持ち帰って作業をしなければならないことがよくあるようです。
その時間も残業にカウントされるべきですが、認められにくいのが現状です。
2、残業代が出ないのは当たり前ではない
サービス残業が常態化した職場では、「残業代などは出ないものだ」とあきらめている方も多いかもしれません。しかし、残業代は請求すれば受け取れる権利があります。
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(1)残業代が出ないのは労働基準法違反
どの企業でも、1日8時間・週40時間以内におさめなければならない基本的な勤務時間である「所定労働時間(労働基準法で定められた法定労働時間)」が定められています。
「三六協定」と呼ばれる労使協定を結んでいる場合は、この時間を超えて働かせてもよいとされています。
ただし、所定労働時間を超えて働いているにもかかわらず、残業代を支払わない場合は労働基準法違反となります。 -
(2)残業には法内残業と法外残業がある
残業には、「法内残業」と「法外残業(時間外労働)」の2種類があります。
法内残業とは、労働時間が所定労働時間を超えているものの、法定労働時間内に収まっている残業のことです。
法外残業(時間外労働)とは法定労働時間を超えている残業のことです。
法内残業は労働時間が法定労働時間内におさまっているので、残業代は残業時間に基礎時給を乗じた金額になります。
一方、法外残業は労働時間が法定労働時間を超えていることから、基礎時給に25%上乗せした割増賃金を支払わなければなりません。
たとえば所定労働時間が9時~17時(休憩1時間)、時給1000円の会社で働いているケースを考えてみましょう。
18時まで残業した場合は、労働時間が1日8時間以内になるので、残業代は1000円となります。
しかし、19時まで残業した場合は、17時~18時の残業代は1000円ですが、18~19時は法定労働時間外になるので、この1時間分の残業代は25%割り増しの1250円となり、残業代の合計は2250円となります。
3、残業代が出ないのが違法にならないケース
労働時間制によっては、労働時間が1日8時間、週40時間を超えても残業代が出ないことが違法にならないケースもあります。
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フレックスタイム制 労働者の都合によって働く時間を柔軟に変えられる働き方です。総労働時間が定められており、1週40時間以上、1か月160~177.1時間(ひと月あたりの日数による)以上働いた場合は残業代が発生します。 裁量労働制 労働時間の管理がなじまない業務で、あらかじめ一定時間労働したことにする制度です。定めた時間が法定労働時間を超えていれば残業代が発生します。 固定残業代制
(みなし残業代制)あらかじめ一定時間残業したものと(みなす)して残業代を給与に反映させる制度です。事前に定められている残業時間を超えて残業したときは、残業代の支払い対象となります。 年俸制 年単位で給与が定められ、それを12で割った金額が毎月支払われる制度です。この場合でも法定労働時間を超えて働いた場合の残業代は支払われます。 管理監督者 経営者と一体的な立場にあり、業務量や業務時間を自由に決められ、それにふさわしい待遇を受けている者のことをいいます。法律上、管理監督者には残業代が不要ですが、管理監督者の要件をきちんと満たしていることが条件です。「店長」「マネジャー」などの肩書がついている場合は管理監督者とみなされやすいですが、法律上の要件を満たしていない場合は残業代を受け取ることができます。
4、残業代が出なくても請求はできる
残業代が会社から出ていなくても、請求することはできます。
会社に未払い残業代を請求するには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。
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(1)残業した証拠を集める
まず、業務日報や勤怠記録などがあればコピーに取って残すなどして、「残業した証拠」を集めましょう。
物的証拠が乏しければ、宅配便や郵便配達など終業時間後に集配作業に来る出入りの業者担当などに、「いつも〇〇さんが荷物(書留など)を受け取ってくれる」といった証言を集める方法もあります。 -
(2)残業時間を示す証拠を集める
次に、「残業時間を示す証拠」を集めます。
タイムカードや会社の入退館で使用するIDカードなどの電子記録があればベストです。厳密な勤怠管理がなされていない企業に勤めている場合は、仕事のやり取りをした会社のメールや、会社近くのお店で買い物をしたときのレシートなども残しておきましょう。
タイムカードがなくても、さまざまな資料を組み合わせによって、有力な証拠と認められることがあるからです。 -
(3)会社に内容証明郵便を送る
証拠がそろったら、会社に未払い残業代を請求するための内容証明郵便を送付しましょう。
内容証明郵便は、「いつ、誰が、どこの誰に」文書を送付したかを郵便局が証明してくれるものです。後に裁判になった場合も、「残業代を請求した」という事実を示す有力な証拠となります。
未払い残業代には時効がありますが、内容証明郵便は時効の完成を猶予するもののひとつ「催告」にあたるので、時効が迫っているときにも有効です。 -
(4)労働審判や労働裁判などの法的手段を利用する
会社との交渉がうまくいかなければ、労働審判や労働裁判などの法的手段を利用することになります。
労働審判は3回の審理で結論が出るので、裁判よりもスピーディーに結果が出るのがメリットです。
ただし、労働審判の結果に当事者のどちらかが納得いかなければ、自動的に訴訟に移行します。一般的に訴訟へ移行すると、裁判の期間が半年から1年ほどかかります。
5、残業代の未払いを弁護士に相談すべき理由
「残業代が出ないなんてもはや当たり前の話だ」とあきらめるのは早いかもしれません。
労働問題の経験豊富な弁護士に相談することにより、残業代を取り戻せる可能性があります。弁護士への相談はどのようなメリットがあるのでしょうか。
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(1)会社が交渉に応じる
労働者がひとりで対峙(たいじ)しようとしても、会社は理由をつけて交渉に応じないケースがあります。
また、「会社に歯向かう人間だ」などのレッテルを貼られ、組織の中で不利な立場に立たされる可能性もあります。
弁護士が労働者の代理人として、依頼者の立場が不利にならないように配慮しながらコンタクトを取れば、会社側も無視できず交渉に応じる可能性が高くなります。 -
(2)残業代の証拠についてアドバイスをもらえる
残業代の請求には証拠が必要ですが、タイムカードなど労働者が勤怠をつける環境がない会社では、残業時間を示す証拠が用意できないこともあります。
そのような場合でも、弁護士に相談すればタイムカードの代わりに残業したことや残業時間を示すことのできる証拠についてのアドバイスをもらえます。 -
(3)弁護士にすべて対応を任せられる
弁護士と委任契約を締結すれば、問題解決まですべての対応を一任することができます。
会社との直接交渉や、自力での資料収集、書類作成、事務手続きなどの必要もないので、今までどおりに日常生活を送ることが可能です。時間的コストが減り、精神的な負担も軽減できる可能性があります。 -
(4)有利な条件で解決できる
弁護士に対応を依頼することで、労働者側にとって不利な条件を一方的に飲まされることはなくなるでしょう。
弁護士は会社側の対応を見ながら戦略を立て、法的根拠に基づき残業代を受け取ることが正当な権利であることを主張します。
交渉がうまく整わない場合は労働審判や労働裁判に移行しますが、交渉の段階から弁護士に対応を一任すればスムーズに進みます。 -
(5)労働基準監督署と弁護士の違い
「未払い残業代は労働基準監督署に相談すればよいのでは?」と考える方もいるかもしれません。
労働基準監督署では無料で話を聞いてもらえるので、相談先の第一歩としては適切な選択です。しかし、労働基準監督署は会社自体に違法行為があれば対応しますが、労働者の個別の事案ではなかなか動いてもらえない可能性があるというデメリットがあります。
個別の問題に対応し、根本的な解決を目指すのであれば、弁護士への相談という選択肢をおすすめします。
6、まとめ
残業代が出ないことは当たり前ではありません。時間外労働をした分の残業代をもらうことは、労働者の正当な権利です。
ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスでは、未払い残業代に悩むみなさんのご相談を受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています