介護休暇・介護休業の取得を断られて解雇された! 会社の対応の違法性について

2021年04月13日
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介護休暇・介護休業の取得を断られて解雇された! 会社の対応の違法性について

令和2年10月1日現在、滋賀県内の65歳以上の高齢者人口は36万8416人で、全人口の26.3%を占めています。
滋賀県内でも高齢化は年々進んでおり、介護を要する方はますます増えていくものと予想されます。

家族を介護する必要がある場合、労働者は介護休暇・介護休業を取得する権利を有しています。
しかし、企業が介護休暇・介護休業の申し出を不当に拒否したり、申し出があったことを理由として事実上解雇に追い込んだりするなどの違法事例がしばしば起こっていることも事実です。
このような会社の違法な対応に対しては、弁護士に相談して決然と対応することをおすすめいたします。

この記事では、会社から不当に拒否されて介護休暇・介護休業がとれない場合の対処法を中心に、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「滋賀県の高齢化の状況」(滋賀県))

1、介護休暇・介護休業とは?

介護休暇・介護休業は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(略称:育児介護休業法)という法律において、労働者の権利として認められています。

まずは、介護休暇・介護休業に関する制度の概要について見てみましょう。

  1. (1)要介護の家族を介護するために認められる

    家族が身体に障害を負っている場合、時に仕事を休んででも介護をしなければならないケースがあります。

    こうした場合に備えて、労働者が家族を介護するために仕事を休むことができるように、法律上の制度として介護休暇・介護休業が設けられているのです。

    介護休暇・介護休業の取得対象者は、以下のいずれかの家族が要介護状態である労働者です(育児介護休業法第2条第4号、同施行規則第3条)。

    • 配偶者(内縁を含む)
    • 父母
    • 子ども
    • 祖父母
    • 兄弟姉妹
    • 配偶者の父母


    なお、介護休暇・介護休業を取得した期間については無給となります。

    ただし、介護休業は、一定の要件を満たした場合、雇用保険の介護休業給付金制度を利用することが可能です。

  2. (2)介護休暇・介護休業の日数は?

    介護休暇は原則として半日単位で、年度ごとに5日を限度として取得できます(育児介護休業法第16条の5第1項、同施行規則第40条第1項)。
    なお、要介護状態の対象家族が複数いる場合は、介護休暇の取得上限が年間10日に増えます。

    これに対して介護休業は、ひとりの要介護状態の対象家族につき、通算93日まで、最大3回に分けて取得できます(同法第11条第2項)。

    このように、臨時で介護が必要になった場合にスポットで取得するのが「介護休暇」、ある程度まとまった期間介護のための休みを取るのが「介護休業」と理解しておけば良いでしょう。

  3. (3)介護休暇・介護休業を利用できない労働者もいる

    介護休暇・介護休業は、すべての労働者に取得が認められているわけではなく、取得に一定の要件が設けられています。

    以下の労働者については、介護休暇・介護休業を取得することができません。

    <介護休暇を取得できない労働者>
    • 日雇い労働者
    • 雇用期間が6か月未満の労働者
    • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
    • 半日単位での介護休暇の取得が困難な業務に従事している労働者(半日単位で取得しようとする場合に限ります)

    <介護休業を取得できない労働者>
    • 日雇い労働者
    • 雇用期間が1年未満の労働者
    • 介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6か月を経過する日までに、労働契約が満了することが明らかな労働者
    • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
    • 労使協定で定められた一定の労働者

2、「要介護」の判断基準は?

介護休暇・介護休業の対象家族が要介護状態にあるかどうかは、厚生労働省が定める基準に従って判断されます。

(参考:「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」(厚生労働省))

まず、介護保険制度の要介護状態区分において、要介護2以上に該当する場合には、介護休暇・介護休業の取得対象である「要介護状態」に該当します。

これに加えて、以下の表のうち2が二つ以上または3が一つ以上該当し、かつ、その状態が継続すると認められる場合にも、「要介護状態」に該当します。

123
座位保持(10分間)自分で可支えてもらえばできるできない
歩行(立ち止まらずに5m程度)つかまらないでできる何かにつかまればできるできない
移乗(ベッドと車いす、車いすと便座の間を移るなど)自分で可一部介助、見守りなどが必要全面的介助が必要
水分・食事摂取自分で可一部介助、見守りなどが必要全面的介助が必要
排泄自分で可一部介助、見守りなどが必要全面的介助が必要
衣類の着脱自分で可一部介助、見守りなどが必要全面的介助が必要
意思の伝達できるときどきできないできない
外出すると戻れないないときどきあるほとんど毎回ある
物を壊したり衣服を破いたりすることがあるないときどきあるほとんど毎回ある
周囲の者が何らかの対応をとらなければならないほどの物忘れがあるないときどきあるほとんど毎回ある
薬の内服自分で可一部介助、見守りなどが必要全面的介助が必要
日常の意思決定できる本人に関する重要な意思決定はできなほとんどできない

3、介護休暇・介護休業は会社に制度がない場合でも取得できる

介護休暇・介護休業は、育児介護休業法で認められた法律上の制度です。
したがって、会社に制度が設けられていない場合であっても、労働者は介護休暇・介護休業を取得する権利があります。

  1. (1)会社は介護休暇・介護休業取得の申し出を拒否できない

    介護休暇・介護休業の取得要件を満たす労働者から取得の申し出があった場合、事業主はその申し出を拒否することができません(育児介護休業法第16条の6第1項、第12条第1項)。

    つまり、会社は「制度がないから」という理由で、労働者からの介護休暇・介護休業の申し出を断ることは認められず、育児介護休業法の規定に従って取得を認める必要があります。

  2. (2)取得時期も労働者の自由

    また、介護休暇・介護休業の取得時期も、労働者が完全に自由に決められます

    有給休暇の場合に使用者に認められている「時季変更権」のように、労働者のリクエストを修正する権利は、事業主には与えられていません。
    したがって、労働者は申し出をした内容のとおりに、介護休暇・介護休業を取得することができます。

4、介護休暇・介護休業の取得を理由とする解雇は違法

介護休暇・介護休業を取得した労働者について、「仕事に穴をあけるなら要らない」などの理由で退職を迫ったり、解雇したりするケースが一部に見られます。
しかし、このような取り扱いは明白に違法となります。

  1. (1)不利益取り扱いは禁止されている

    介護休暇・介護休業の取得を申し出たことや、実際に取得したことを理由として、労働者を不利益に取り扱うことは法律上禁止されています(育児介護休業法第16条の7、第16条、第10条)。

    上記のルールからすれば、介護休暇・介護休業を理由として労働者を解雇することは、不利益取り扱いの禁止への違反が明らかです。

    また、解雇をするまでには至らずとも、介護休暇・介護休業を理由として、労働者に退職するよう説得する行為(退職勧奨)についても、同様に不利益取り扱いの禁止に違反するものと評価できます。

    解雇・退職勧奨以外にも、介護休暇・介護休業を理由に減給したり、人事評価上のマイナス点をつけたりすることなども、不利益取り扱いの禁止に照らして認められません。

  2. (2)解雇には別の理由が必要|解雇が認められる場合とは

    介護休暇・介護休業に関する不利益取り扱いの禁止ルールを意識して、会社が表向きには別の理由を提示して、労働者を解雇するケースが存在します。

    しかし、介護休暇・介護休業の申し出・取得が理由でなかったとしても、会社が労働者を一方的に解雇することは、多くの場合違法になります。

    それというのも、労働基準法第16条には「解雇権濫用の法理」が定められており、客観的に合理的な理由を欠き、社会的相当性のない解雇は違法無効となるからです。

    解雇権濫用の法理が課す要件をクリアして、適法な解雇が認められる場合としては、以下の例が挙げられます。

    • 就業規則上の懲戒解雇事由に該当し、かつ就業規則違反の内容が悪質な場合
    • 整理解雇の4要件(人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、被解雇者選定の合理性、手続きの妥当性)を満たす場合


    いずれもかなり厳しい要件ですので、会社から一方的に解雇を通告された場合は、まず違法の疑いを持つべきでしょう。
    もし会社から突然解雇を言い渡されてしまった場合は、お早めに弁護士までご相談ください。

5、まとめ

会社からの拒否に遭って介護休暇や介護休業をとれない場合、会社の対応が違法と評価される可能性が高いでしょう。
さらに、介護休暇・介護休業の申し出・取得を理由に労働者を解雇することは、育児介護休業法の明文で禁止されている違法行為です。

もしこのような不当な取り扱いを会社から受けてしまった場合は、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスにご相談ください。
グループ内の労働問題を取り扱う専門チームと連携して、会社に対する正当な権利主張をサポートいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています