給料が払えない場合はどうする? 対処法や整理解雇を弁護士が解説
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全国企業倒産集計によると、令和5年度における滋賀県内の倒産件数は88件、負債総額は155億3300万円でした。令和4年度に比べて倒産件数は18件、負債総額は95億2800万円増加しており、不況型倒産が増えていることが伺えます。
従業員に対する給料の支払いは、労働基準法で義務付けられています。しかし、会社の経営状況が悪化し、従業員に給料が支払えず悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
本コラムでは、給料が払えない場合の対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。
出典:「全国企業倒産集計 2023年度報 2024年3月報」(帝国データバンク)
1、給与支払いの原則とは
給与支払いには、労働基準法によって定められた4つの原則があり、これを守らなければなりません。労働者に対する給与支払いの基本ルールとして、まずは原則の内容を確認していきましょう。
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(1)通貨払いの原則
従業員の給与は、原則として通貨で支払わなければなりません。
通貨とは、日本国内の紙幣および貨幣を指します。そのため、日本国内で労働している従業員に対する給与を、外国の貨幣で支払うことは認められません。
また、小切手による支払いや、会社で扱っている商品など現物による支給も基本的に禁止されています。
例外として、従業員の同意が得られた場合は、銀行口座振り込みによる給与支払いが可能です。 -
(2)直接払いの原則
給与は、従業員本人に対して直接支払うのが原則です。
もし従業員に代理人がいたとして、代理人に給与を支払ってしまったら、直接払いの原則に違反することになります。労働者が未成年のアルバイトであったとしても、本人に直接支払う必要があります。
ただし、例外として本人の意思によって使いをする「使者」への給与支払いは認められています。たとえば、従業員本人が病気で給与を受け取れない場合に、配偶者に受け取りに行かせるケースは違法になりません。 -
(3)全額払いの原則
従業員の給与は、全額支払うという原則もあります。
会社の経営が厳しい状況であっても、全額払いの原則に違反した給与未払いや不当な減額は認められません。
ただし、健康保険料や厚生年金保険料などの控除については、例外として認められています。また、社宅費用や組合費用・業務に必要な備品の購買費用など、労使協定にもとづいた控除も例外となるケースのひとつです。 -
(4)毎月1回以上の定期払いの原則
給与の支払いは毎月1回以上、一定の期日にする必要があります。
毎月1日から末日までの間に1回以上支払うのが原則で、1か月半や2か月に1回の支払いは認められません。年俸制を採用している企業であっても、12か月で割って定期的に一定額を支払うのが原則です。
なお、臨時に支払われる賞与や、突発的な事由によって支払われる手当に関しては、定期払いの原則の対象外となります。
2、給与支払いでやってはいけないこと
経営が悪化して資金繰りが難しくなったとしても、従業員の給料は優先して支払わなければなりません。ここでは、給与支払いでやってはいけないことを解説します。
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(1)給料を減額する
従業員の給料を、一方的に減額することは認められません。経営状況の悪化によるものであったとしても、勝手な給料減額は全額払いの原則に違反する行為です。
給料は労働条件のひとつのため、減額する前に従業員の合意を得る必要があります。
ただし、従業員が就業規則に違反し、懲戒処分として行う場合は給料の減額が認められています。具体的には、減給処分をする際は、問題行動1回につき1日の平均賃金の半額が限度です。 -
(2)分割払いや給料の天引き
給料を分割払いにしたり、経営者側の都合で勝手に天引きしたりする行為は、全額払いの原則に違反します。
経営が厳しいという理由で全額支払わなかった場合、労働基準法違反として罰則を科される可能性があるため注意しましょう。
天引きが認められているのは、社会保険料・源泉徴収・財形貯蓄・労使協定による費用など一部の範囲に限られます。 -
(3)2か月分をまとめて支払う
給与は毎月1回以上の定期的な支払いが原則とされているため、2か月分をまとめて支払うのは違法です。
毎月1回以上の定期払いの原則は、従業員の計画的で安定した生活を守るための規定です。
「毎月25日」「毎月の月末日」「毎週土曜日」など、給料日は明確に決めておく必要があります。 -
(4)違法な解雇をする
給料が支払えないからといって、安易に従業員を解雇すると違法とみなされる可能性があります。
人員の削減が必要な場合は、整理解雇が可能か検討しましょう。整理解雇とは、経営不振など経営上の理由で従業員を減らすことです。
整理解雇が適法と判断されるためには、以下の要件を満たすことが重要です。- 人員削減が経営上必要であること
- 会社側が解雇を回避するための努力を尽くしていること
- 解雇者が合理的基準で選定されていること
- 解雇者や労働組合に十分な説明や協議を行っていること
不当解雇として裁判を起こされる事態を防ぐためにも、まずは弁護士へ相談するのをおすすめします。
3、給与が支払えない場合の会社の倒産手続き
従業員の給与が支払えず、事業の継続が困難になった場合は会社の倒産手続きを検討しましょう。会社の倒産処理手続きの方法は、4種類あります。
どの方法を選ぶべきか迷ったら、弁護士にご相談ください。
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(1)法人破産
法人破産とは、支払不能や債務超過で事業が継続できなくなった会社を清算する法的手続きです。
裁判所に破産を申し立てて認められると、裁判所が選任した破産管財人が会社の財産を管理・処分して債権者に配当します。手続きが終了すると会社は法人格を失い、債務も消滅します。
法人破産は債務を返済できる見込みがなく、会社の再建が困難な場合に検討しましょう。 -
(2)特別清算
特別清算とは、債務超過になっている株式会社を清算する法的手続きです。
特別清算が行えるのは株式会社のみ、債権者の同意がある場合に限られますが、法人破産に比べて簡易的な手続きで会社を清算できます。また、清算人を会社側が選任できる点や、債権者の同意が必要な点も特別清算の特徴です。
清算人を自分で選任したい場合や、債権者からの同意を得られそうな場合は特別清算を検討しましょう。 -
(3)民事再生
民事再生とは、経営状況が悪化した会社が、債権者の多数の同意を得て再建を図る法的手続きです。法人破産は会社を清算して消滅させるのが目的であるのに対し、民事再生は会社の再建が目的となります。
裁判所の定めた期間内に再生計画案を提出し、可決されれば民事再生が認められ、債務が圧縮されます。
債務の減額によって返済が可能になるケースでは、民事再生を行えば事業を継続できる可能性もあるでしょう。 -
(4)会社更生
会社更生とは、経営状況が悪化した株式会社が、裁判所が選んだ更生管財人のもとで事業の再建を図る法的手続きです。
民事再生と同様に会社の再建を目指す手続きですが、民事再生とは異なり株式会社のみが対象となります。また、会社更生は大規模な株式会社の利用を想定している制度であるため、裁判所に納める費用が高くなりやすい傾向にあります。
組織変更も含めた抜本的な再建計画を立案できる強力な制度ですが、中小企業であれば民事再生を検討した方がいいでしょう。
4、給与を支払えない会社がとれる対応方法
給与支払いが困難な状態から脱するためには、さまざまな方法があります。以下のような方法を活用して、資金繰りの改善を図りましょう。
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(1)会社内で対応する
① 役員報酬を減額する
会社を存続させるために経営者がまず着手すべきことは、役員報酬の減額です。
役員報酬の変更は、原則として事業年度開始日から3か月以内に株主総会などで正式に決定する必要があります。
しかし、業績が悪化し役員報酬を減額せざるを得ない理由があると認められた場合、期の途中でも変更が可能です。急を要する場合には取締役会や臨時株主総会を開催し、役員の同意を得た上で減額を決定しましょう。
② 役員借入金を利用する
会社を存続させる方法として、役員借入金の利用も検討しましょう。
役員借入金とは、会社が役員個人から借り入れるお金です。役員借入金は利息を支払わなくても税務上問題ないため、無利息で比較的簡単に資金調達できます。
会社の資金が一時的に足りない場合でも、役員借入金を活用できれば従業員の給料を支払えるでしょう。
このほか、従業員に説明して給料の支払いや遅れを待ってもらう(遅れる場合は遅延損害金が発生する)という方法もあります。 -
(2)社外に助けを求める
銀行などの金融機関からの融資は、長期的な資金調達方法として有効です。
金融機関は経済状況を評価し、事業計画にもとづいて融資の可否を判断します。業績が悪化している状況では、審査に通らない可能性もあるため注意が必要です。
原材料費の支払い猶予や、販売代金の早期支払いを取引先と交渉するのも方法のひとつです。 -
(3)行政の補助制度を利用する
国の補助制度を利用できる場合もあります。
利用できる可能性のある主な補助制度は、以下のとおりです。- 雇用調整助成金制度
- セーフティネット保証
- 危機関連保証
これらの制度の利用には、条件を満たす必要があるため、詳細は事前に確認するようにしましょう。
5、まとめ
給料の支払いは従業員の生活を守る上でも、会社が社会的責任を果たす上でも重要な義務です。資金繰りが悪化した状況でも、給料未払いや勝手な減額などは避けなければなりません。
経営が困難な状態になってから弁護士に相談することも可能ですが、できれば普段から弁護士に相談できる環境を整えておくのをおすすめします。
顧問弁護士サービスを活用すれば、給料の支払いに限らずさまざまなトラブルに対する法的アドバイスが受けられます。ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの顧問弁護士サービスをぜひご検討ください。
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