介護事業に関連する法律は? 事業者が把握しておくべき規制内容について

2021年09月15日
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介護事業に関連する法律は? 事業者が把握しておくべき規制内容について

日本医師会のデータによると、2018年12月時点での滋賀県内における介護施設数は、合計2246となっています。

介護事業を始める際には、許認可・会社設立・施設建築・労務管理などの観点から、さまざまな規制法を順守する必要があります。介護事業を規制する法律の体系は複雑なので、必要に応じて顧問弁護士と相談しながら対応しましょう。

この記事では、介護事業に関連する法律の全体像について、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「地域医療情報システム 滋賀県」(日本医師会))

1、介護保険法による事業者規制

介護事業を規制する主要な法律といえるのが「介護保険法」です。
介護保険法では、被介護者についての要介護状態の認定基準などを定めるほか、介護事業者についても各種の規制を定めています

  1. (1)事業形態によって必要なライセンスが異なる

    介護事業を始める際には、入居者などから徴収する介護費用とは別に、介護保険制度に基づく介護報酬を保険者から受け取ることが前提となります。

    事業者が介護報酬を受け取るためには、介護保険法の定めに従い、事業形態ごと(指定居宅サービス事業者・指定地域密着型サービス事業者・指定介護老人福祉施設・介護老人保健施設・指定介護予防サービス事業者など)に決まっているライセンス(許認可)を取得しなければなりません。

    ライセンスの取得に当たっては、厚生労働省が定める基準に従って、膨大な必要書類を作成・提出する必要があります。
    ライセンスの取得プロセスは非常に複雑なので、弁護士のサポートを得ながら準備を進めるのが良いでしょう。

  2. (2)各事業形態について行為規制が定められている

    介護保険事業の各形態において提供されるサービスは、施設・介護者などに関して、都道府県や市区町村が定める条例の基準を満たさなければなりません(介護保険法第74条第2項、第78条の4第2項等)。

    また、介護事業に関して重要な事項について変更があった場合には、都道府県知事や市区町村長に届け出る義務を負っています(同法第75条第1項、第78条の5第1項等)。

    さらに、介護事業の運営上不適切な問題が発生していると判断される場合には、都道府県知事や市区町村長から報告要求・検査・勧告・命令などが行われる可能性があるほか、是正されない場合にはライセンスが取り消される可能性もあります(同法第76条、第76条の2、第77条、第78条の7、第78条の9、第78条の10等)。

    介護事業者としては、上記の介護保険法に基づく規制内容を順守したうえで、介護事業を運営しなければなりません。

2、運営会社のガバナンスに関する会社法規制

介護事業を開始するに当たって、運営会社をどのような形態で設立するかは、一つの重要な検討ポイントになります。

運営会社の設立・運営には、「会社法」が関係してきます。

  1. (1)会社形態を選択する

    会社法に基づき設立することが可能な会社形態には、合名会社・合資会社・合同会社・株式会社の四つがあります。
    それぞれの特徴は、以下の表のとおりです。

    合名会社 合資会社 合同会社 株式会社
    持分会社or株式会社 持分会社 持分会社 持分会社 株式会社
    社員(株主)の責任範囲 直接無限責任 直接無限責任・間接有限責任(それぞれ最低1名) 間接有限責任 間接有限責任

    上記の表のとおり、会社法上の会社形態は、以下の二つの観点から選択することになります。

    ① 持分会社か株式会社か
    持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)は、会社組織に関するルールが緩やかなので、比較的自由に機関設計をすることができます。

    一方、株式会社の場合、株主総会・取締役会・監査役会など、会社組織に関するルールが会社法上厳格に定められています。
    その分機関設計の自由度は低いですが、対外的な信用を得やすいというメリットがあります。

    ② 社員の責任範囲をどうするか
    合名会社・合資会社については、会社の債権者に対して、会社の債務を全額弁済する責任を負う「直接無限責任社員」が存在します。

    これに対して、合同会社・株式会社については、社員(株主)は出資の限度で債権者に対する責任を負うに過ぎません。
    社員(株主)の責任を軽減する観点から、合名会社や合資会社ではなく、合同会社や株式会社が選択されることがほとんどです

  2. (2)株主総会・取締役会などの運営方法を整備

    介護事業の運営会社を設立する場合、設立後の会社運営に関するルールを把握・実施する必要があります。

    特に、会社法で規定される株主総会や取締役会などの運営方法については、顧問弁護士に相談しながら事前に確認しておきましょう。

3、建築基準法による施設建物に対する規制

施設型の介護事業を展開する場合には、介護施設について「建築基準法」上の規制を満たしているかを確認しなければなりません。

  1. (1)建物の利用には検査済証の交付を受けることが必要

    介護施設用に新規に建物を建築した場合、建築物が法令に適合しているかどうかのチェックを受けるため、建築主は建築主事の検査を申請しなければなりません(建築基準法第7条第1項)。

    検査に合格した場合、建築主事から建築主に対して「検査済証」が交付されます(同条第5項)。
    この検査済証の交付を受けるまでは、建築物を介護施設として使用することができないので注意しましょう(同法第7条の6第1項)。

  2. (2)増改築・用途変更に関する手続きも要確認

    既存の建物を介護施設に転用するため、増改築や用途変更を行う場合にも、建築基準法上の規制を順守する必要があります。

    必要な手続き等については、建築を担当する一級建築士や顧問弁護士に確認しましょう。

4、消防法への対応も必要

介護施設では、「消防法」上、政令で定める技術上の基準に従い、消防用設備等(消火設備・警報設備・避難設備・防火水槽等など)を設置・維持することが義務付けられています(消防法第17条第1項、同法施行令第7条)。

また、各市町村は、その地方の気候や風土の特殊性に応じて、消防法・同法施行令で定められる消防用設備等の設置・維持義務を、条例により加重できるものとされています(消防法第17条第2項)。

このように、介護施設を開設する際には、上記の消防法上の規制を順守した設備配置を行うことも必要です。

5、従業員の雇用を規制する労働法

介護施設では、介護士や事務員など、さまざまな従業員を雇用することになるでしょう。
従業員を雇用するに当たって、事業主は労働関連法制を順守する必要があります。

  1. (1)労働基準法

    労働関連法制の中でもっとも代表的な法律が「労働基準法」です。

    労働基準法では、労働者の権利を守るために、事業主が順守すべきさまざまなルールが定められています。
    一例を挙げると、以下のとおりです。

    • 法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)
    • 時間外労働の規制(いわゆる「36協定」、時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働手当)
    • 有給休暇の付与
    • 産前産後休暇
    • 休業手当
    • 労働条件の明示 など


    事業主が労働基準法上のルールに違反すると、従業員との間で紛争を誘発し、民事上の損害賠償や刑事罰などのペナルティーを負ってしまう可能性があります。

    そのため、日常のオペレーションの中で、労働基準法上の問題が発生していないかどうかを、経営者が把握できる社内体制を構築することが大切です

  2. (2)労働契約法

    労働契約法も、事業者と従業員の関係を規律する重要な法律のひとつです。

    特に、労働契約法第16条で定められる「解雇権濫用の法理」により、事業者が従業員を解雇するハードルが極めて高くなっていることに注意する必要があります。
    もし従業員を解雇しようとする際には、後に従業員との間で紛争が発生しないよう、弁護士に相談して慎重に対応することをおすすめいたします。

6、介護事業を始める際には顧問弁護士を付けるのがおすすめ

介護事業を開始するに当たっては、上記で解説したように、さまざまな法律における規制を把握し、順守しなければなりません。

しかし、複雑な法規制をすべて把握して正確に対応することは、法律の専門家でなければほぼ不可能です。
また、法規制対応に追われるあまり、介護サービスの充実や、経営上の判断がおろそかになってしまっては本末転倒でしょう。

そこで、介護事業を始める際には、当初から顧問弁護士を付けることをおすすめします
顧問弁護士は、介護事業者の日常的な法律アドバイザーとして、各種規制法への対応を中心とする法律相談について、タイムリーなアドバイスを提供してくれます。

7、まとめ

介護事業には、介護保険法・会社法・建築基準法・消防法・労働関連法制など、さまざまな法律が関係してきます。
これらの法律は、介護施設における日常のオペレーションにも密接に関連しているので、普段から法律相談ができる顧問弁護士を付けておくのが良いでしょう。

ベリーベスト法律事務所では、ヘルスケア事業に関する総合的なリーガルサービスをご提供しています。
法令上の順守事項や注意点を踏まえたうえで、介護事業者がリーガルリスクから解放されるように、事業スキームの設計段階から親身になってご相談に応じます。

これから介護事業を開始するに当たって、リーガルアドバイスをご希望の事業者の方は、ぜひベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています