独占禁止法の課徴金減免制度 【令和2年12月25日から新制度がスタート】

2021年05月27日
  • 一般企業法務
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独占禁止法の課徴金減免制度 【令和2年12月25日から新制度がスタート】

令和元年(2019年)中に、近畿地区において発生した独占禁止法違反の処理件数のうち、排除措置命令等に至ったものは1件、注意が行われたものは5件でした。

独占禁止法違反が発覚した場合、違反した企業には高額の課徴金が課されてしまいます。

しかし、公正取引委員会に対して独占禁止法違反の事実を申告し、その調査に協力した場合、課徴金が免除・減額となる場合があります。これを「課徴金減免制度」といいます。

令和2年12月25日より、課徴金減免制度に関する新たなルールが施行されました。 企業担当者の方は、独占禁止法違反が発生しないように十分留意するとともに、万が一違反が発生した場合に備えて、課徴金減免制度の内容を正しく理解しておきましょう。

この記事では、課徴金減免制度に関する新ルールの詳細について、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。

(出典:「令和元年度における近畿地区の独占禁止法の運用状況等について」(公正取引委員会)

1、課徴金減免制度とは? 改正の背景も解説

独占禁止法上の規定に関する各種違反を犯した事業者に対しては、公正取引委員会から課徴金が課されます(独占禁止法第7条の2、第20条の2から第20条の6)。

しかし、違反事業者が公正取引委員会に対する報告と調査への協力をすれば、「課徴金減免制度」の適用を受けることが可能です。

まずは課徴金減免制度の概要と、今回の法改正の背景について押さえておきましょう。

  1. (1)独占禁止法違反の当事者に自主的な報告を促す制度

    独占禁止法違反に当たる行為の多くは、業界内でトップシェアを占める数社による談合などにより行われます(カルテル、入札談合など)。
    つまり、ひとつの違反に対して複数の違反事業者がいる場合が多いのです。

    課徴金減免制度は、違反事業者が公正取引委員会に自主的に報告する申請順位が早いほど、課徴金の減免率が高くなる制度になっています。

    つまり、課徴金の減免というメリットの提示によって、違反事業者による自主的な報告を促し、公正取引委員会が独占禁止法違反の事実を速やかに把握できるようになっているのです。

  2. (2)調査協力へのインセンティブを高めるための改正

    従来の課徴金減免制度では、減免率は申請の順位など、そのタイミングのみに従って決定される仕組みになっていました。

    しかし公正取引委員会にとっては、いち早く独占禁止法違反の情報をつかむということに加えて、しっかりと事実調査を行い、違反行為の実態を明らかにすることも大切です。
    この点を踏まえて、単に早い者勝ちというだけでなく、公正取引委員会の調査への貢献度の観点も減免率に反映すべきではないかという議論がなされていました。

    そこで、令和2年12月25日施行の改正独占禁止法では、申請順位に加え、「調査への協力度合い」を減免率に反映させることなどが盛り込まれました

2、令和2年施行:課徴金減免制度の改正ポイント

令和2年12月25日施行の改正独占禁止法における、課徴金減免制度の主な改正ポイントは以下のとおりです。

<改正法施行前の減免率表>

申請順位 減免率
調査開始日前の申請 1位 全額免除
2位 50%
3位から5位 30%
6位以下 なし
調査開始日前の申請 最大3社※ 30%
それ以降 なし
※調査開始前の申請と併せて5社まで

<改正法施行後の減免率表>
申請順位 申請順位に応じた
減免率
協力度合いに応じた
減算率
調査開始日前の申請 1位 全額免除
2位 20% +最大40%
3位から5位 10%
6位以下 5%
調査開始日前の申請 最大3社※ 10% +最大20%
それ以降 5%
※調査開始前の申請と併せて5社まで

  1. (1)協力度合いに応じた減算率の導入

    従来の課徴金減免制度では、「課徴金の減免率」は、申請のタイミングが調査開始の前か後どちらであるかと申請順位によって決定されていました。

    一方、令和2年施行の改正独占禁止法では、申請順位に応じた基本の減免率だけではなく、公正取引委員会の調査への協力度合いに応じた上乗せの減算率が新たに設定されました。
    上乗せの減算率は、違反事業者の協力度合(協力が事件の真相の解明に資する程度)に応じて変動します。
    事件の真相の解明に資する程度を評価するに当たっては、違反事業者の報告等が①具体的かつ詳細であるか否か、②公正取引委員会規則で定める事件の真相の解明に資する事項について網羅的であるか否か、③違反事業者が提出した資料により裏付けられるか否かの要素が考慮されます

  2. (2)減免対象となる申請順位の拡大

    また従来は、課徴金減免制度の適用を受けられるのは、申請が早い方から順に5社までとなっていました。

    令和2年施行の改正独占禁止法では、申請順位が6位以降の違反事業者についても、課徴金減免制度の適用を受けられるようになりました。

    申請順位が6位以降であっても、協力度合いに応じた減算率によっては、最大で45%の課徴金減免を受けることができます

3、新しい課徴金減免制度における申請の流れ

令和2年施行の改正独占禁止法に基づく課徴金減免制度では、制度適用の申請方法も新しくなっています。

  1. (1)ファクシミリから電子メールへ変更に

    従来は、課徴金減免制度の適用申請は、ファクシミリを利用して行うこととされていました。

    しかし、ファクシミリ普及率の低下・インターネット普及率の上昇を踏まえて、新ルールの下では電子メールによる申請に変更されました。

    申請先のメールアドレスや申請様式については、公正取引委員会のホームページをご参照ください。

    (参考:「新しい課徴金減免制度の概要について(令和2年12月25日以降の制度)」(公正取引委員会)

  2. (2)メール送信後は受信の有無について電話確認を

    課徴金減免制度は、申請順位によって減免率が大きく変わりますので、申請の電子メールが確実に送信されたかどうかを確認することが重要です。

    メールシステムの設定上の不具合などにより、電子メールが届かないうちに、他の事業者に先を越されてしまうケースなども起こり得ることです。

    そのため、申請の電子メールを送信したら、課徴金減免管理官に受信されたのかを電話で確認しましょう

    なお、事前に課徴金減免管理官に個別相談を行っておけば、開庁時間外の受信確認についても対応してもらえます。

4、課徴金減免制度に関して企業が留意すべきこと

令和2年施行改正独占禁止法における新たな課徴金減免制度の内容を踏まえて、企業担当者の方は新たなルールに対応するため、以下の点に留意しておきましょう。

  1. (1)そもそも独占禁止法違反を犯さない

    課徴金減免制度は、独占禁止法違反を犯した事業者に対する課徴金を減免する制度ですが、そもそも独占禁止法に抵触しなければ、課徴金自体は問題になりません

    企業担当者の方は、これまでと同様に、自社が独占禁止法違反に当たる行為に関わっていないかについて、注意深くモニタリングを行いましょう。

  2. (2)違反が発覚したら速やかに課徴金減免制度の利用を申請する

    万が一、自社が独占禁止法違反に当たる行為をしていた場合には、今後他社の報告によって、その事実が明るみに出る可能性があることを考慮する必要があります。

    そのため、速やかに課徴金減免制度の利用を検討しましょう
    減免率は申請順位に大きく影響されるため、一刻も早い対応が必要です。

  3. (3)公正取引委員会の調査には全面的に協力する

    課徴金減免制度に関する新ルールの下では、公正取引委員会の調査に対する協力度合いに応じた上乗せの減算率も大きな要素となっています。

    そのため、課徴金減免制度の適用を申請する際には、独占禁止法に関するガイドラインである調査協力減算制度の運用方針を参考に、事件の真相の解明に資する程度が高いと評価される報告をして、より多くの減算率を獲得できるように努めるべきです。

  4. (4)弁護士に依頼をして迅速な危機管理対応を

    独占禁止法違反は、それ自体が企業生命にかかわる重大な違反です。

    課徴金減免制度適用の速やかな申請や、社会に対する説明などの事後処理を適切に行わなければ、会社は多大なコストを支払うことになるかもしれません。

    迅速な危機管理対応を行うためには、弁護士のバックアップを得ることをおすすめします。
    弁護士は、コンプライアンス・危機管理に関する対応経験を生かして、企業に生じるダメージを最小限に食い止めるための助言・サポートを行うことが可能です。

    自社による独占禁止法違反の行為を発見した企業担当者の方は、すぐにベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。

5、まとめ

課徴金減免制度に関する新ルールにより、申請順位とともに、公正取引委員会の調査への協力度合いに応じて、減算率が上乗せされるようになりました。

しかし、依然として迅速な申請やその他の危機管理対応が重要なことには変わりがありません。そのため、万が一独占禁止法違反の事実が判明したら、弁護士に相談して迅速な対応を取ることが大切です。

ベリーベスト法律事務所の企業法務専門チームは、企業担当者の方からのご相談に随時対応しています。

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