別居中に妻が自己破産したとき、夫の財産に生じる影響を解説
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令和4年の滋賀県草津市の婚姻件数は578件、離婚件数は166件でした。
別居している妻が自己破産すると、夫にも影響が及ぶことがあります。とくに、住宅を妻との共同名義で購入した場合や妻の借金を連帯保証している場合には、深刻な影響を受ける可能性があることに注意してください。
本コラムでは、別居中の妻が自己破産した場合に生じる影響や自己破産を理由とする離婚の可否などについて、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。
1、別居中の妻が自分に黙って自己破産することは可能?
妻と別居していたら、夫である自分が知らないうちに、妻が自己破産していた、という場合があります。
法律上、自己破産は本人の判断でできることになっており、配偶者など家族の同意は必要ありません。
したがって、妻が自己破産しても、基本的には夫の財産に影響は及びません。
しかし、例外的に影響を受ける場合もあることに注意が必要です。
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(1)自己破産は本人の判断でできる|配偶者の同意は不要
自己破産とは、債務者(破産者)の財産を処分して債権者へ配当する代わりに、残った債務全額を免除する手続きです。
借金の返済が不可能となった債務者にとって、自己破産は最後の救済手段と位置付けられます。
民法では「夫婦別産制」が採用されており、夫婦はそれぞれの財産を自ら所有および管理します。
そのため、自己破産についても、夫婦別産制の考え方に基づき、配偶者の同意は必要とされていません。
したがって、別居中の妻が黙って自己破産を申し立てたとしても、それを止めることはできないのです。 -
(2)別居中の妻が自己破産するとどうなる?
別居中の妻が自己破産した場合、破産手続きの中で妻の財産が処分されます。
これに対して、妻に関する破産手続きにおいて、夫の財産が処分されることはありません。
前述の「夫婦別産制」の考え方に基づき、妻の破産手続きでは妻の財産だけ処分されるためです。
ただし、後述するように、妻との共有財産がある場合や妻の連帯保証人になっていた場合には、妻の自己破産によって夫の財産にも影響が及ぶことがあります。
2、自己破産した妻と共同名義で購入した住宅はどうなる?
妻の自己破産によって夫の財産に影響が及ぶ典型例のひとつが、妻との間で財産を共有している場合です。
たとえば、住宅(マンション・戸建)を夫婦共同で購入することがあります。
このような場合には、妻が自己破産すると共有持分が競売され、住宅を他人と共有することになる可能性があるのです。
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(1)妻の共有持分は処分される|他人と共有することになるかも
自己破産の手続きでは、一部の例外を除いて債務者の財産が処分されます。
不動産の共有持分が、破産手続きによる処分を免れることはまずありません。
したがって、住宅に関する妻の共有持分は、破産手続きによって処分されることになります。
夫の共有持分に影響はありませんが、妻の共有持分を第三者が取得した場合には、見知らぬ他人と住宅を共有することになってしまいます。
破産管財人に連絡して、夫による共有持分の買い取りを提案することは可能です。
しかし、住宅の共有持分は数千万円単位の高額となるケースも多いため、資金をどのように用意するかが課題となります。 -
(2)住宅を他人と共有することになった場合のリスク
妻の共有持分が第三者に売却された結果、他人と住宅を共有することになった場合、夫は以下のようなリスクを負うことになります。
① 使用の対価を請求される
夫が住宅に住み続ける場合は、共有持分を超えて住宅を使用することになります。
この場合、共有者から夫の持分を超える使用の対価の償還を請求される可能性があります(民法第249条第2項)。
② 売却・賃貸に当たって共有者の同意が必要となる
住宅を売却する際には、他の共有者の同意を得る必要があります(民法第251条第1項)。また、夫の共有持分が過半数に満たない場合は、賃貸に当たっても他の共有者の同意が必要です(民法第252条第1項)。
売却や賃貸について他の共有者が反対すると、スムーズに住宅を活用できなくなるリスクがあります。
③ 共有物分割請求を受ける
各共有者は、原則としていつでも共有物の分割を請求できます(民法第256条第1項)。
他の共有者から共有物分割請求を受けた場合は、代償分割や換価分割によって(※)、共有者間で住宅を分割しなければなりません。
(※)- 代償分割:住宅全体を取得する共有者が、他の共有者に対して代償金を支払う分割方法
- 換価分割:住宅を売却して、代金を共有者間で分割する方法
3、自己破産した妻の連帯保証人になっていたらどうなる?
自己破産をした妻の連帯保証人になっていた場合には、妻の債権者から債務の支払いを請求される可能性が高いでしょう。
もし返済できない場合は、弁護士に相談して債務整理を行うことも検討してください。
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(1)妻の借金を支払う義務を負う
連帯保証人は、主たる債務者が債務不履行を起こした場合に、その債務全額を支払う義務を負います。
自己破産をした妻は、債務を支払うことができない状態にあります。
したがって、妻の債権者は、連帯保証人である夫に対して借金などの債務の支払いを請求してくるでしょう。
自己破産に追い込まれるような状況では、妻は多額の借金を負っていることが大半です。その場合、連帯保証人が一挙に多額の請求を受けて、支払困難な状態に陥ってしまうこともよくあります。 -
(2)支払えない場合は債務整理を検討すべき
連帯保証債務を支払えない場合は、債務整理を検討してください。
債務整理の方法は、主に以下の三種類です。① 任意整理
債権者と交渉して、債務の減額や支払いスケジュールの変更を認めてもらう手続きです。債権者の同意が必要ですが、簡易・迅速に行うことができるメリットがあります。
② 個人再生
裁判手続きを通じて、債務の減額や支払いスケジュールの変更を取り決めます。
任意整理よりも大幅に債務を減額できる可能性があります。
また、住宅についても、再生計画の内容次第では処分を免れることが可能です。
③ 自己破産
裁判手続きを通じて、債務者の財産を処分したうえで債権者に配当し、残った債務全額が免除されます。
住宅などの財産は処分されてしまいますが、債務がゼロになる点が大きなメリットです。
夫の状況に合わせた手続きを選択したうえで、弁護士を代理人として適切に準備と対応を行えば、支払い困難な状況を脱却できます。
連帯保証人として多額の支払いを請求されてしまい、お困りの方は、お早めに弁護士にご相談ください。
4、妻が自己破産したことを理由に離婚できる?
別居中の妻が黙って自己破産をしたなら、信頼を失ってしまい、「もう離婚したい」と考えることもあるでしょう。
自己破産をした妻と合意すれば離婚できますが、妻が離婚に反対している場合は「法定離婚事由」の存在を立証する必要があります。
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(1)妻と合意すれば離婚できる
夫婦が合意すれば、理由を問わずに離婚を成立させることができます。
合意による離婚には、「協議離婚」と「調停離婚」の二種類があります。① 協議離婚
夫婦間で直接話し合ったうえで離婚に合意します。
市区町村役場に離婚届を提出すると、協議離婚が成立します。
② 調停離婚
家庭裁判所の離婚調停を通じて、調停委員の仲介の下で話し合ったうえで離婚に合意します。
調停成立をもって離婚が成立し、成立日を含めて10日以内に市区町村役場へ離婚届を提出します。
離婚の合意を得るためには、お互いが納得できる離婚条件を設定することが大切です。
とくに、自己破産をした妻は、経済的な不安から財産分与・婚姻費用・養育費などを多めに要求してくる可能性があります。
専門家である弁護士に相談しながら、相場に基づく適正な金額や条件での離婚成立を目指しましょう。 -
(2)妻が同意しない場合は法定離婚事由が必要
妻が離婚に同意しない場合は、離婚訴訟を通じて裁判離婚を目指す必要があります。
離婚訴訟において、裁判所が離婚を成立させる判決を言い渡すのは、以下のいずれかの「法定離婚事由」が立証された場合に限られます(民法第770条第1項)。- ① 不貞行為
- ② 悪意の遺棄
- ③ 3年以上の生死不明
- ④ 強度の精神病にかかり、回復の見込みがないこと
- ⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由
妻が自己破産をしている場合には、以下のような事情があるなら、法定離婚事由に該当する可能性があります。
- 夫とは別の相手に多額の金品を与えている
→不貞行為(ただし、妻と相手との間に性的関係がある場合) - 全く生活費を負担せずに遊び歩いている
→悪意の遺棄 - 浪費癖がひどすぎる
→その他婚姻を継続し難い重大な事由
裁判離婚が認められるかどうかは具体的な事情によって変わってくるため、裁判を起こすべきかどうか判断するためにも、まずは弁護士に相談してください。
5、まとめ
別居中の妻が自己破産したとしても、原則として夫の財産に影響はありません。
ただし、妻と共同で購入した住宅がある場合や、妻の連帯保証人になっている場合には、夫にも影響が及ぶことがあるので要注意です。
トラブルが発生する可能性がある場合には、弁護士に相談してください。
ベリーベスト法律事務所では、債務整理から離婚まで、幅広い法律問題に関してご相談を承っております。
妻の自己破産に伴い債務整理が必要になった場合や、妻との離婚を希望される場合には、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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