「離婚しない。でも婚姻費用は払い続けて」と主張する妻への対処法は?
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2017年の滋賀県の人口動態統計によると、同年中の滋賀県内での離婚件数は2204組で、2年ぶりの増加に転じました。
一方離婚率は人口1000人あたり1.59で、全都道府県中、全国第32位の水準となっています。
不倫などを原因として夫婦間で仲たがいをして別居に至ったケースで、配偶者が離婚を拒否しながらも「婚姻費用」の支払いを請求してくる場合があります。
婚姻費用を請求された場合、正当な理由なく支払わないと遅延損害金が発生したり、強制執行に発展したりしますので、弁護士に相談をしながら適切に対処することが必要です。
この記事では、夫婦別居時に発生する婚姻費用について、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「統計だより」(滋賀県))
1、そもそも婚姻費用とは?
「婚姻費用」は、養育費などと比べるとあまり聞きなじみがないかもしれません。
まずは、婚姻費用とはどういうものか見ていきましょう。
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(1)結婚生活に必要となる費用全般を指す
婚姻費用とは、結婚生活に必要となる一切の費用をいいます(民法第760条)。
婚姻費用には、食費・家賃・日用品の購入費・医療費などがすべて含まれます。
夫婦は、それぞれの収入に応じて、婚姻費用を分担する義務を負っています。 -
(2)別居時には夫婦間で婚姻費用の精算が問題となる
夫婦が同居している時には、共同生活を営む中で適宜分担し合えば良いため、婚姻費用が特に問題になることはありません。
これに対して、夫婦が仲たがいして別居するようになった場合、それぞれが単独で生活を営むことになります。
しかし、離婚しないで婚姻関係が存続している限り婚姻費用の分担義務は継続するため、収入の多い方から少ない方に対して、婚姻費用の支払い義務が生じるのです。
なお、婚姻費用の支払い義務は、「離婚が成立するまで」継続します。
そのため、相手が離婚に応じない場合や、離婚の話し合いや調停の最中である場合などには、婚姻費用の支払い義務が発生し続けることになります。
2、別居時の婚姻費用の金額相場は? 算定表を基に解説
夫婦が別居している際に、収入の多い側から少ない側に対して支払うべき婚姻費用の金額は、裁判所が定める婚姻費用の算定表に従って計算されるのが一般的です。
(参考:「平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(裁判所))
算定表は、①子どもの人数と②子どもの年齢に応じて分けて作成されています。
以下では、子どもが1人の場合と2人の場合について、具体的に婚姻費用の金額をシミュレーションしてみましょう。
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(1)子どもが1人の場合
子どもが1人の場合について、以下の設例を考えてみましょう。
〈設例①〉- 子どもは12歳で、妻のもとで暮らしている
- 夫は給与所得者で年収600万円
- 妻は給与所得者で年収250万円
この場合、「(標準算定表・表11)婚姻費用・子ども1人表(子ども0〜14歳)」を用いて養育費を計算します。
年収額については、給与所得者の場合と自営業者の場合に分けて記載されている点に注意しましょう。
設例①では、夫婦が給与所得者同士で、年収がそれぞれ600万円・250万円なので、夫が妻に対して「8〜10万円」の婚姻費用を支払う必要があります。
もう一つ設例を検討してみます。〈設例②〉- 子どもは15歳で、妻のもとで暮らしている
- 夫は給与所得者で年収600万円
- 妻は給与所得者で年収250万円
設例②では、設例①と夫婦の収入は同じですが、子どもの年齢が15歳となっています。
子どもが15歳以上のケースでは、「(標準算定表・表12)婚姻費用・子ども1人表(子ども15歳以上)」を用いて婚姻費用を計算します。
同表によれば、夫婦が給与所得者同士で、年収がそれぞれ600万円・250万円のケースでは、夫が妻に対して「10〜12万円」の婚姻費用を支払う義務を負います。 -
(2)子どもが2人の場合
次に、子どもが2人の場合の婚姻費用について検討します。
〈設例③〉- 子どもは12歳、10歳で、2人とも妻のもとで暮らしている
- 夫は給与所得者で年収600万円
- 妻は給与所得者で年収250万円
設例③では、子どもが2人とも14歳以下なので、「(標準算定表・表13)婚姻費用・子ども2人表(第1子および第2子0〜14歳)」を用いて婚姻費用を算定します。
同表によれば、夫婦が給与所得者同士で、年収がそれぞれ600万円・250万円のケースでは、夫が妻に対して支払うべき婚姻費用は「10〜12万円」です。
しかし、レンジの上限に位置しているため、限りなく12万円に近い金額が認められることになるでしょう。
子どもが2人の場合についても、子どもの年齢を変えて考えてみます。〈設例④〉- 子どもは17歳、15歳で、2人とも妻のもとで暮らしている
- 夫は給与所得者で年収600万円
- 妻は給与所得者で年収250万円
設例④では、子どもが2人とも15歳以上です。
したがって、「(標準算定表・表15)婚姻費用・子ども2人表(第1子および第2子15歳以上)」を用いて婚姻費用を算定します。
同表によれば、夫婦が給与所得者同士で、年収がそれぞれ600万円・250万円のケースでは、夫が妻に対して支払うべき婚姻費用は「12〜14万円」となります。
※婚姻費用は以下のページでチェックができます。
婚姻費用計算ツール
3、婚姻費用はどのように取り決める?
別居している夫婦間で、婚姻費用の金額を取り決める方法には、どのようなものがあるのでしょうか。
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(1)夫婦間の話し合い
婚姻費用の分担を決める場合、まずは夫婦で話し合うことになります。
婚姻費用算定表によって算定される金額にかかわらず、夫婦で合意が成立すれば、婚姻費用はどのような金額でも構いません。 -
(2)婚姻費用の分担請求調停
夫婦間で婚姻費用に関する話し合いがまとまらない場合は、「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てる方法もあります。
(参考:「婚姻費用の分担請求調停」(裁判所))
調停では、調停委員が夫婦双方の言い分を聞いて、両当事者の間で和解(調停)が成立するように話し合いを仲介します。
第三者である調停委員が間に入ることで、夫婦だけで話し合いをする場合よりも、冷静な交渉が可能になることが期待されます。 -
(3)離婚に関する調停・訴訟
離婚に関する調停や訴訟が係属している場合でも、実際に離婚が成立するまでの間は婚姻費用が発生します。
そのため、離婚に関する調停や訴訟が継続している場合でも、婚姻費用の支払いを求める調停や審判を同時に起こすことができます。
4、婚姻費用はいつまでに支払う必要がある? 支払わないとどうなる?
婚姻費用の支払い義務を負う場合、期限までにきちんと支払わなければなりません。
以下では、婚姻費用はいつまでに支払わなければならないのか、また支払わないとどうなるのかについて解説します。
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(1)話し合い・調停の場合は合意で定めた期限までに支払う
夫婦間の話し合いや、調停によって婚姻費用の分担が決定された場合には、同時に婚姻費用の支払い期限も設定されます。
この場合は、夫婦間で合意した支払期限までに婚姻費用を支払わなければなりません。 -
(2)審判の場合は審判確定後すぐに支払う
一方、審判で婚姻費用の分担が決定された場合には、審判確定後、直ちに婚姻費用を支払う必要があります。
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(3)支払わないと遅延損害金が発生|最悪の場合強制執行も
婚姻費用を支払期限までに支払わない場合、支払い遅滞となった日から毎日、「法定利率に則った遅延損害金」が発生します。
また、婚姻費用の支払い義務が調停や審判によって確定された場合や、「強制執行認諾文言付きの公正証書」によって合意された場合には、相手から強制執行の手続きを取られる可能性もあります。
強制執行が行われると、財産が無差別に差し押さえられてしまい、生活に支障が生じてしまうでしょう。
そのため、婚姻費用は支払期限までにきちんと支払う必要があります。
5、離婚・婚姻費用の話し合いがまとまらないときは弁護士に相談を
離婚や婚姻費用に関する話し合いがまとまらない場合は、弁護士に相談することをおすすめいたします。
離婚の話し合いが長引くと、婚姻費用の金額はどんどん膨らんでしまいます。
そのため、弁護士に依頼をして調停などの手続きを利用し、スムーズに離婚問題を解決することが急務です。
ベリーベスト法律事務所の弁護士は、離婚案件にも数多く携わってきた経験を有しています。そのため、離婚や婚姻費用に関する話し合いがこじれてしまった場合でも、安心して離婚問題の処理を任せていただけます。
6、まとめ
離婚しないで婚姻関係が存続しているうちは、夫婦のうち収入の多い方から少ない方に対して、婚姻費用を支払う必要があります。
また、婚姻費用の金額は夫婦の収入バランスに加えて、給与所得者・自営業者の別や、子どもの人数および年齢によって決定されます。
離婚に関する話し合いが長引くと、離婚が成立するまで延々と婚姻費用が発生してしまうので、できるだけ早期に離婚問題を解決することが重要です。
夫婦の別居や離婚に関してもめ事になってしまった場合には、ぜひお早めにベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士にご相談ください。
相談者の方の親身になってご対応いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています