デマを流したり拡散させたりするのは犯罪? 適用される刑罰と対処法

2020年06月25日
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デマを流したり拡散させたりするのは犯罪? 適用される刑罰と対処法

新型コロナウイルスの感染拡大に伴ったさまざまなデマは、市民の平穏な日常生活を混乱に陥れました。
令和2年1月には「滋賀県の病院で、新型コロナウイルスの感染者がでた」というデマが流れ、県が過剰に心配しないよう呼びかける事態になりました。まだ全国的にウイルスが広まっておらず、多くの人が不安を覚えている時期だっただけに、情報がより広まってしまったと考えられます。

SNSやインターネット掲示板で、個人が気軽に自由な情報を発信できる時代になりましたが、不用意な発言が爆発的に拡散されてしまい、大きな問題となるケースも少なくありません。
海外では、社会秩序を乱すデマに対して刑事罰を科す国もありますが、わが国ではデマを流した場合に法的な責任を負うことはあるのでしょうか?

このコラムでは、滋賀草津オフィスの弁護士が「デマが罪に問われるケース」について解説します。

1、デマを流すと罪に問われるおそれがある

わが国の現行法においては、デマを流したという事実だけで成立する犯罪はありません。
ただし、デマの内容やデマによって引き起こされた事態によっては、刑法の信用毀損(きそん)罪・偽計業務妨害罪・名誉毀損(きそん)罪にあたるおそれがあります。

  1. (1)デマそのものを規制する法律はない

    大規模な災害や感染症の流行のたびに、「デマ」の拡散が発生しています。
    誰かを陥れるような悪意に基づくデマもあれば、今回の新型コロナウイルスの流行に対して「◯◯が感染予防に効果がある」といった真偽不明な情報がデマだったというケースもありますが、いずれにしても社会に混乱を招くのは間違いありません。

    ただし、わが国の現行法では「デマそのもの」を処罰・禁止する法律は存在しません。
    たとえ社会的な混乱を招いたとしても「デマを流した」という容疑で逮捕されたり、刑罰を科せられたりすることはないのです。

  2. (2)信用毀損罪・偽計業務妨害罪にあたるケース

    ただし、デマが他人の信用をおとしめる結果を招いた場合は、刑法第233条前段に規定されている「信用毀損罪」にあたるおそれがあります。
    また、他人の業務を妨害した場合は、同じく刑法第233条の後段に規定されている「偽計業務妨害罪」で罰せられます。

    【刑法第233条 信用毀損および偽計業務妨害】
    虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。


    「虚偽の風説を流布」とは、うその情報を世間に流すことです。
    また「偽計を用いる」とは、うその情報によって人を欺き、誘惑することをいいます。

    これらの手段を用いて「信用の毀損」または「業務の妨害」という危険が生じれば、それぞれ信用毀損罪・偽計業務妨害罪が成立します。

    ここで注意したいのが「信用」のとらえ方です。
    信用とは、個人的な信頼などを指すのではなく「経済的な信用」、つまり個人の支払い能力や会社の資産などを指します。また、経済面だけではなく、サービスの品質や商品そのものの信用も含まれると考えられます。

    たとえば、あの企業は倒産間近だ、商品はすべて不良品だ、腐っているなどのデマを流されたケースなどが該当するでしょう。

  3. (3)名誉毀損罪にあたるケース

    他人の不確かな情報を世間に公表する、嫌がらせで事実無根のデマを流すなどの行為は、刑法第230条1項の「名誉毀損罪」によって罰せられるおそれがあります。

    【刑法第230条1項 名誉毀損】
    公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処する。


    SNSやインターネット上のトラブルで、たびたび問題となるのが名誉毀損罪です。
    「公然と事実を摘示」とは、不特定または多数の第三者に知られる状態で、ある特定の事柄を指して言葉や文章で発することを指します。特定の事柄が真実であるか、それともうそであるかは問いません。たとえデマではないとしても、他人の社会的な信用を損なうような事柄を発信すると、名誉毀損罪に問われるおそれがあります。

    「名誉を毀損」とは、名誉が傷つくという意味合いにとれますが、ここでは「社会的な信用を損なう」と解釈されます。
    つまり、単に不快だ、気分が悪い、などと感じただけでは、名誉毀損罪は成立しません。

2、削除しても罪に問われる

自分が流したデマがまたたく間に世間に広がってしまい、収拾がつかない状況になってしまうと「大変なことになってしまった」と焦り、投稿などを削除することを考えるでしょう。
削除さえしてしまえば、罪にならないと思うかもしれませんが、それは間違いです。

  1. (1)犯罪は「デマを流した時点」で成立する

    デマを流したことで罰せられるおそれのある、信用毀損罪・偽計業務妨害罪・名誉毀損罪は、「抽象的危険犯」と呼ばれる犯罪です。
    具体的な侵害が発生していない場合でも、行為そのものが侵害発生の危険をもたらすと成立します。

    つまり、デマを流す行為は「信用を傷つけた」「業務を妨害した」「名誉を毀損した」といった結果が発生していない場合でも、デマを流した時点で「危険が発生した」とみなし、犯罪が成立するのです。

  2. (2)デマを流した証拠は残る

    SNSやインターネット上にデマを投稿し、その後に投稿やアカウントを削除しても、証拠は残ります。
    なぜなら、IPアドレスやプロバイダが所有する契約者情報から個人を特定することができてしまうためです。匿名だから大丈夫、削除したから逃げられる、などと安易に考えることは得策とはいえません。

3、デマの拡散(リツイート)も犯罪になる

Facebookの「いいね」やTwitterの「リツイート」などは、投稿への共感やフォロー・フォロワーが「見た」ことを示すサインとして活用される機能です。

SNSを利用するうえでは、特に意識することなく、これらの機能を利用している方が多いでしょう。しかし、デマの拡散を手伝ってしまった場合は、罪に問われるおそれがあるので注意が必要です。

令和元年9月には、大阪府の元府知事が自身への名誉毀損にあたる投稿について拡散を手伝ったとしてジャーナリストの男性を訴え、勝訴したというニュースが報じられました。
この事例は名誉毀損を理由とした、民事裁判における損害賠償請求訴訟ですが、裁判所が「リツイートも名誉毀損にあたる」と示した点は、大きな意味があるといえます。

刑事事件においても同様の判断が下されるおそれがあるので、第三者が発信したデマ情報の拡散は厳に慎むべきでしょう。
特に、多数のフォロワーがいるアカウントをもっている場合は、影響力が大きいため注意が必要です。

4、デマを投稿して逮捕された場合の対処法

SNSやインターネットでデマを投稿した疑いで逮捕されてしまうと、身柄を拘束されたうえで警察官・検察官による取り調べを受けることになります。
起訴されてしまうと刑事裁判になり、高い確率で有罪判決が下されます。デマの対象者に謝罪のうえで示談交渉を進めるのが得策です。

  1. (1)逮捕された場合の刑事手続きの流れ

    警察に被疑者として逮捕されると、48時間をリミットとした身柄拘束のなかで取り調べを受けたのち、検察官に送致されます。送致から24時間以内に起訴・不起訴が決定します。
    ただし、この時点では捜査が尽くされていないことが多く、起訴・不起訴の判断ができないことも少なくありません。
    そこで、検察官は、身柄拘束を延長するために裁判官に対して勾留の許可を求めます。
    これが「勾留請求」です。

    勾留が認められると、原則10日間、延長が認められるとさらに10日間、合計で20日を上限とした身柄拘束が可能となります。
    勾留期間が満期になる日までに、検察官は再び起訴・不起訴を判断し、罪に問うべきと判断すれば刑事裁判へと移行します。
    刑事裁判で有罪判決が下されれば刑罰を受けることになり、実刑判決が下された場合は刑務所に収監されます。

  2. (2)被害者への謝罪と示談交渉

    デマを流した結果、刑事事件に発展してしまった場合は、まず被害者へ謝罪することが先決です。
    被害者への真摯(しんし)な謝罪に加えて、慰謝料や損害賠償を含めた示談金を支払うことで、被害届や告訴の取り下げを求めましょう。
    取り下げがかなえば逮捕・勾留・起訴の回避が期待できます。

  3. (3)最善策は弁護士への相談

    刑事事件において被害者との示談交渉を進めるには、弁護士のサポートが必須です。

    デマを流した加害者の立場では、被害者へのコンタクトを拒否されるおそれが高く、示談交渉のテーブルについてもらうことさえ難しいでしょう。
    そもそも、被害者の連絡先などがわからないケースも少なくありません。
    加害者が捜査機関に問い合わせても、原則として連絡先は教えてもらえません。そこで、弁護士によるはたらきかけが必要となります。
    弁護士であれば、捜査機関から連絡先を教えてもらえる可能性があります。また、弁護士が代理人として立つことで、被害者側が交渉に応じることも期待できるでしょう。

    その他、弁護士は取り調べの対応に関するアドバイスや、勾留を回避するために捜査機関へ意見書を提出するなど、早期解決にむけた弁護活動を行います。

5、まとめ

ちょっとしたイタズラ心や、強い悪意がなかった場合でも、デマを流したことで他人に迷惑がかかってしまえば刑事事件に発展するおそれがあります。
SNSやインターネットでデマを発信すれば、自分の意図にかかわらず爆発的に拡散されてしまう可能性があります。投稿やアカウントを削除しても、罪から逃れることはできません。
世間に混乱を招く事態になってしまった場合は、まず弁護士に相談して解決に向けたアドバイスを求めましょう。

デマを流してしまい、犯罪に該当するか不安を感じているときは、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士にご相談ください。
刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、デマを発端としたトラブルの解決に向けて全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています