残業代の「割増率」とは? 正しい計算方法を知り不払いを防ぐ方法
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滋賀県によって実施された「平成30年労働条件実態調査」によれば、県内の調査対象の83.3%の事業所が労働時間短縮のために何らかの取組みを実施しているという調査結果が出ています。
このような企業側の取り組みがある一方、熱心に就職活動を行って入社しても、期待に反して日常的に残業を強いられる企業も少なくありません。残業代が支給されても、実際の残業時間と比較すると少ない気がしている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
残業代には正しい計算方法があります。支給さえされていたら良いというものではありません。
本記事では、残業代の「割増率」を含めて正しい計算方法をベリーベスト法律事務所滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。残業代が適正に支給されていないのではないかと不安をお持ちの方は、ぜひ参考にしてみてください。
1、残業代の種類
そもそも「残業代」とは法的にどういったものを意味するのか、理解しましょう。
残業とは「定められた労働時間を超えた労働」です。基本給には定められた労働時間に対応する分しか含まれないので、超過して働いた場合には別途「残業代」を請求できます。
残業代には「法内残業」と「法定時間外残業」の2種類があります。
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(1)法内残業
労働基準法の定める「法定労働時間」内におさまっている残業です。
労働基準法は、労働時間に上限をもうけています。
・1日8時間、1週間に40時間(ただし変形労働時間制の場合には異なる計算方法となります)
これを「法定労働時間」といいます。
労働契約や就業規則によって決まる所定労働時間を超えていても、法定労働時間内におさまっていれば「法内残業」です。たとえば所定労働時間を1日6時間とされている方が8時間労働したら、2時間が法内残業となります。 -
(2)法定時間外残業
法定時間外残業は、法定労働時間を超えて働いた場合の残業です。
たとえば1日10時間働いたら、2時間が法定時間外残業となります。
法内残業と法定時間外残業とでは残業代計算方法が異なるので、まずはこの2種類の違いを正しく理解しましょう。
2、「休日」労働とは
残業代計算の際には「休日労働」についての知識も必須です。休日労働も残業の一種として残業代支給の対象となるからです。
休日労働にも2種類があります。
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(1)所定休日における労働
所定休日は、企業が自主的に定める休日です。
労働基準法は、「1週間に1日以上、または4週間に4日以上の休日を与えなければならない」と定めています。この労働基準法で義務づけられる休日を「法定休日」といいます。多くの企業は「毎週日曜日」など、1週間に1回の休日を指定しています。
法定休日以外の任意の休日が「所定休日」です。たとえば週休2日制で土日が休日の企業では、「日曜日が法定休日、土曜日が所定休日」とされるケースが多くなっています。
この場合、土曜日の所定休日に働いたら所定休日労働となります。 -
(2)法定休日における労働
法定休日は、労働基準法が定める休日です。法定休日にはたらいたら法定休日労働となります。
たとえば「毎週日曜日が法定休日」とされている企業の場合、日曜日にはたらいたら法定休日労働です。
所定休日と法定休日では、同じ残業でも残業代計算方法が異なります。残業代を正しく計算するには、就業規則などを確認して「自社の法定休日がいつになっているのか」を把握する必要があります。
3、残業代の「割増率」とは?
残業代を計算するときのカギになるのが「割増率」です。
・割増率とは
割増率とは、労働基準法の定める基準時間を超えてはたらいたときに通常より一定割合加算される賃金の割合です。
労働基準法は、労働者への負担が過度にならないよう、法定労働時間や法定休日を定めています。三六協定を締結すれば時間外の労働自体は違法ではありませんが、労働者を保護するため「残業をさせるなら普段より高めに賃金を払わねばならない」ルールが定められています。その「普段より高い賃金」を算定するために「割増率」が適用されています。
割増率は、法定時間外労働と休日労働以外に「深夜労働」した場合にも適用されます。深夜に働いた場合には、労働者へ通常労働より負荷が大きいとされるからです。深夜とされる時間帯は「午後10時から午前5時まで」です。
それぞれの割増率がどのくらいになるのか、数字を確認しましょう。
●基本的な法定労働時間外労働
1日8時間、1週間に40時間の法定労働時間を超えて残業した場合、割増率は「1.25倍(25%増し)以上」となります。
●1か月に60時間を超える法定時間外労働
1か月に60時間を超える法定時間外労働をしたときには、残業代の割増率が「1.5倍(50%増し)以上」となります。ただし中小企業には適用を猶予されているので、現状は1.25倍の場合が多いようです。2023年4月から、中小企業でも割増率が1.5倍以上となる適用予定となっています。
●深夜労働
夜10時から翌朝5時までの深夜労働の場合、割増率は「1.25倍(25%増し)」となります。
●法定休日労働
法定休日労働をした場合、割増率は「1.35倍(35%増し)」となります。
法定時間外労働でかつ深夜労働の場合、割増率をプラスして「25%+25%=50%」の割増賃金が適用されます。
深夜労働かつ休日労働の場合には割増率をプラスして「25%+35%=60%」の割増率が適用されます。
【残業代の割増率】
労働形態 | 割増率 |
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法定時間外労働 | 25%以上 |
深夜労働 | 25%以上 | 休日労働 | 35%以上 |
法定労働時間外+深夜労働 | 60%以上 |
深夜労働+休日労働 | 50%以上 |
1か月に60時間を超える法定時間外労働(2023年3月までは大企業のみ) | 50%以上 |
1か月に60時間を超える法定時間外労働+深夜労働(2023年3月までは大企業のみ) | 75%以上 |
4、残業代の計算方法
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(1)残業代の計算式
残業代は、以下の計算式を使って計算します。
●残業代=1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率
1時間あたりの基礎賃金は「1時間あたりの単価(時給)」です。月給制の場合、1か月の給与額から家族手当や通勤手当などの諸手当を引き算した金額を月の所定労働時間で割り算して求めます。
残業時間は、実際に残業をした時間数です。
割増率は、上記の表を使って残業の種類に応じて適用します。
法定労働時間内に労働時間がおさまっていれば、割増率は「0」として計算します。 -
(2)残業代計算の具体例
所定労働時間8時間、1時間あたりの基礎賃金が5000円の労働者が、「1日12時間」、うち「深夜に2時間」働き、別途5時間休日労働を行った。
法定時間外労働は2時間です。
5000円×2時間×1.25=1万2500円
深夜労働かつ法定労働時間外労働が2時間です。
5000円×2時間×1.5=1万5000円
休日労働が5時間です。
5000円×5時間×1.35=3万3750円
合計1万2500円+1万5000円+3万3750円=6万1250円
このケースでは「6万1250円」の残業代が発生していることになります。
5、残業代が発生しないと誤解されがちなパターン
世間では、本来なら残業代が支給されなければならないにもかかわらず「残業代が発生しない」と思い込まれているケースが少なくありません。
以下で残業代を支給しなくて良いと誤解されがちなパターンを五つ、ご紹介します。
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(1)変形労働時間制
変形労働時間制とは、1か月や1年単位で労働時間を把握する制度です。
一般原則では「1日8時間、1週間に40時間」という「日単位、週単位」を基準としますが、これを「月単位、年単位」で計算するのが変形労働時間制です。
変形労働時間制が採用されている企業は、1年や1か月のうち繁忙期と閑散期の差が激しい業種が主です。繁忙期には残業が増える一方で閑散期にはさほど多くはたらいてもらわなくて良いので、通算して労働時間を評価し、残業代を計算します。
基本的には1週間の所定労働時間を40時間としますが、特定業種の場合には1週間の所定労働時間を44時間にできます。
参考までに、月単位の法定労働時間は以下のとおりです。1か月の日数 1週間の所定労働時間が40時間 1週間の所定労働時間が44時間 28日 160.0時間 176.0時間 29日 165.7時間 182.2時間 30日 171.4時間 188.5時間 31日 177.1時間 194.8時間
変形労働時間制でも、上記の法定労働時間を超えて働いた場合には残業代を請求できます。
会社から「変形労働時間制は残業代が支給されない」と説明されているなら、不払い残業代が発生している可能性が高いといえるでしょう。 -
(2)フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、労働者が自由に出退勤時間を決められる制度です。必ず会社内にいなければならない「コアタイム」を定め、それ以外の出退勤の時間は自由に選択できるとする例が多数です。フレックスタイム制も変形労働時間制の一種なので、変形労働時間制と同様の残業代計算方法となります。上記でご紹介した表の法定労働時間を超えた場合は超過分の残業代の請求を検討しましょう。
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(3)みなし労働時間制
みなし労働時間制とは、固定給の中にあらかじめ残業代を含んでいるので別途残業代を支給しないという制度です。
みなし労働時間制を導入するには「就業規則」で明示しなければなりません。また「固定給の部分」と「残業代の部分」が明確に区別されている必要があり、何時間分の残業代に相当するのかも明らかしなければなりません。
こうしたルールに違反しているとみなし労働時間制を導入したことにならないので、残業代の請求を検討する場合、通常の残業代計算方法となります。
ルールに則り、有効に導入されていたとしても、予定された時間を超えて働いた場合には、残業代請求が可能です。 -
(4)裁量労働制
専門職や企業の中心で企画立案などを行う業種には、出退勤時間の制限が無くなる裁量労働制が適用されるケースがあります。裁量労働制が適用されると実労働時間に応じた残業代は発生しません。
ただ、実際には裁量労働制を適用できない業種の方にまで「裁量労働制だから残業代を払わない」と説明される例が多々あるようです。しかし、裁量労働制でも深夜に働いた場合などには割増賃金を請求することができます。 -
(5)管理職
課長や店長などの「管理職」になると、残業代が支給されないケースが多々あります。たとえば、会社側が「労働基準法上の管理監督者になったので残業代を支給する必要がない」する「名ばかり管理職」が一時期社会問題になりました。
管理職でも労働基準法上の管理監督者に該当しないケースが多いので、実態を把握した上で残業代請求の要否を判断しなければなりません。
課長、店長、マネジャーになった途端、業務内容がさほど変わっていないのに残業代を支給されなくなった方は、残業代が不払いになっている可能性が高いといえるでしょう。
6、まとめ
使用者側から「残業代は適正に支払っている」と説明されても、必ずしも法定時間外残業の割増率が正しく反映されているとは限りません。残業代に関して疑問があるなら、早めに弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスでは、残業代請求問題の経験豊富な弁護士が不払い事案へ対応いたします。残業代請求権には時効も適用されるので、不払いになっている可能性があるなら、お早めにご相談ください。
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