時間外労働はどんな状況で発生する? 未払い残業代の請求方法を解説
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全国の労働局では、賃金不払い残業をさせた企業への是正指導を行っています。滋賀では、平成30年度の是正指導の結果、1175人の労働者に総額1億1028万円の未払い賃金が支払われたとされています。
このようにサービス残業をしていたときには、賃金不払いが表面化して問題が解決されることもあります。しかし従業員側も、「会社の残業代がもらえないのは当たり前だ」などと会社に思わされ、問題化されることなく残業代の未払いが続いているケースもあります。
労働者側も積極的に時間外労働に関する理解を深め、ご自身の健康やご家族との時間を積極的に確保することは大切です。
本コラムでは、時間外労働についての押さえておくべき基礎知識を、上限規制や残業代の計算方法も含めてベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説していきます。
1、時間外労働とは?
時間外労働とは、法定労働時間を超える労働のことをいいます。
法定労働時間は、労働基準法で1日8時間・1週40時間以内と定められています。
したがって、1日8時間・1週40時間を超えて労働した時間は、時間外労働としてカウントされます。
時間外労働としてカウントする時間は、一般的に「残業」と思われている時間と異なる可能性があるので注意が必要です。
たとえば、平日9時から17時まで(休憩1時間)の1日7時間を就業時間として定めている(所定労働時間にしている)会社で考えてみます。
この場合、所定労働時間の17時を過ぎて働けば、「今日は時間外労働だ」と思うかもしれません。
しかし1日8時間までは法定労働時間内になるので、9時から18時までの労働は時間外労働には当たりません。18時を過ぎて働く場合でなければ、労働基準法上の時間外労働とは認められません。もっとも、時間外労働ではないけれども、所定労働時間を超えて労働した場合、先の例でいうと17時を過ぎて働いた場合の18時までの労働に対しては、使用者は、通常の賃金の1時間分に相当する金額の残業代を支払わなければなりません。
他方で、時間外労働に対しては、使用者は通常の賃金の2割5分以上の率を上乗せして計算した割増賃金を支払わなければなりません。
2、時間外労働には上限規制がある
時間外労働に対する割増賃金を支払えば、労働者に長時間労働をいくらでも求めてもよいかというとそうではありません。平成30年6月には、長時間労働の是正などを内容とする「働き方改革関連法」が成立し、時間外労働の上限規制が法律で規定されることになりました。
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(1)改正の背景
労働者に時間外労働や休日労働をさせるためには、使用者は書面で三六協定という労使協定を締結して、管轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
この三六協定で定める時間外労働については、これまで厚生労働大臣によって上限の基準が設けられていました。しかしこの大臣が示す上限の基準は、罰則がなく強制力のないものでした。したがって臨時的な特別の事情があって労使が合意していれば、三六協定に特別条項を入れて、上限時間を超える時間外労働が無限に認められてしまうという問題がありました。 -
(2)法律による上限規制
そこでこれまでの問題を解決するための法改正が行われ、協定で特別条項を設けていても上回ることができない上限規制が法律で規定されました。
時間外労働の上限規制の具体的な内容は、次のとおりです。- ①原則として月45時間・年360時間が上限
- ②例外として「臨時な特別の事情があって労使が合意する場合」(特別条項がある場合)には、以下の条件に反しなければ認められる
- ・時間外労働が年720時間以内である
- ・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満である
- ・時間外労働と休日労働の合計について、複数月(6か月まで)で平均した時間が月80時間以内である
- ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、1年のうち6か月を限度とする
なお上限規制に違反する時間外労働をさせた場合には、使用者は懲役6か月以下または30万円以下の罰金に処される可能性があります。
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(3)令和2年4月からは中小企業にも適用
時間外労働の上限規制は、平成31年4月1日から大企業に適用されています。中小企業については1年間の猶予期間があり、令和2年4月から適用が開始されています。
ただし自動車運転の業務や建設業務、医師、新技術・新商品などの研究開発業務については、令和2年以降も適用が猶予されたり除外されたりしています。
3、いくらになる?残業代の計算方法
会社に残業代を請求する場合には、ご自身で時間外労働の時間を正確に把握し、残業代を算出する必要があります。
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(1)残業代の計算方法
残業代は、「基礎賃金×時間外労働などの時間数×割増率」で計算できます。
基礎賃金には、基本給だけでなく手当も含めることができます。ただし家族手当や通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、結婚手当などの臨時に支払われた賃金、賞与などの1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は除外できるとされています。
簡単な具体例で、残業代の計算方法を確認しておきましょう。
たとえば月給20万円(除外賃金は含まない)で所定労働日20日、所定労働時間が8時間の従業員が3時間の時間外労働を行ったとします。
この場合に残業代計算の基礎賃金は、20万円÷20日÷8時間=1250円になります。
したがって会社の割増率が2割5分で設定されているのであれば、1250×3時間×1.25=4687.5円が残業代ということになります。 -
(2)残業代を計算するときの注意点
残業というと、終業時刻後の労働をイメージしやすいかもしれません。しかし早朝出勤して終業時刻に退社する場合も、残業(時間外労働)が発生している可能性があるので注意が必要です。たとえば「早めについて会社でゆっくりしたいから」といった個人的な理由であれば、もちろん早出しても時間外労働にはなりません。しかし使用者の明示または黙示の指示によって業務に従事しているのであれば、早出した時間も労働時間に含まれ時間外労働が発生します。
また法定労働時間以内でも、所定労働時間を超す労働時間に対しては賃金を請求することが可能です。ただしこの場合には、会社の規定がなければ割増賃金にはなりません。
なお残業代を請求できる権利は時効によって消滅するため、今までの残業代をすべて請求できるわけではないので注意が必要です。
ちなみに時効は、残業代が支払われるべきだった給与の支給日が令和2年4月1日より前であれば2年で完成します。
令和2年4月1日以降に支払われる賃金については、改正後の労働基準法が適用されるので時効期間は3年になります。
なお残業代の具体的な計算方法は、それぞれの会社の規定によって異なる可能性があります。確実に算出するのであれば、弁護士に相談することがおすすめです。
4、残業代はどのように請求する?
残業代は、次のような方法で請求することができます。
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(1)会社に直接請求する
まずご自身で直接会社に交渉して、残業代を請求する方法があります。
直接請求するときには、「請求した」「請求されていない」といった争いにならないように請求は内容証明郵便などの証拠が残る形で行うことが大切です。
ただし個人で会社という組織に立ち向かうことは、困難をきわめることが想定されます。
「まともに対応してもらえない」「会社が顧問弁護士を立ててきた」といったことも考えられます。 -
(2)労働審判や訴訟で請求する
残業代の請求は、労働審判や訴訟といった裁判所が関与する手続きのなかでも行うことができます。労働審判は、労働問題などを迅速に解決することを目的とした手続きです。労働審判では、まず裁判官や労働審判員を交えて、事業者と労働者の話し合いによる調停が試みられます。調停で解決できないときには、労働審判が行われます。
ただし労働審判に対して当事者から異議が申し立てられたときには、通常の訴訟の中で解決が図られることになります。 -
(3)弁護士を代理人に立てて請求する
残業代請求は、ご自身で行うことなく弁護士に依頼する方法もあります。弁護士は、ご依頼者の代理人として会社に残業代請求をすることができます。ご依頼者が直接会社と交渉しなくてもよくなるので、お気持ちの負担を大きく軽減できることになります。
そして内容証明郵便などを会社に送付する際にも弁護士の名前で送付することによって、会社はトラブルが大きくなることをおそれ、早期解決に向けて対応する可能性があります。
また労働審判などでも、弁護士は裁判所にどのような主張・証拠が有利に働くかなどの経験・知見が豊富であることから、有利な結果を得る可能性が高くなります。
5、まとめ
本コラムでは、時間外労働について、上限規制や残業代の計算方法も含めて解説していきました。時間外労働には上限規制があり、違反すれば罰則の対象になりえます。サービス残業が常態化しているような職場で働いているときには、まずは日ごろから証拠を収集しておくなどの対応が必要でしょう。
ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士は、残業代請求など労働トラブルの解決に向けて全力でご相談者をサポートします。ぜひお気軽にご相談ください。
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