失敗例から考える残業代請求の適切な対処法とは? 弁護士が解説

2020年05月18日
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失敗例から考える残業代請求の適切な対処法とは? 弁護士が解説

草津市を管轄する滋賀労働局によると、平成30年度には20企業に対して是正指導を実施し、総額約1億1028万円分の不払い残業代が支払われたとされます。
労働基準監督署の指導が入る企業は全体のごく一部とも考えられるので、実際にはさらに多くの労働者が残業代の不払い問題を抱えていると推測できます。

しかし会社に残業代請求しようと考えていても、失敗したときのリスクが気にかかり、行動に移せない方も少なくないでしょう。失敗するリスクを減らすためには、労働者側が自身の雇用契約内容を理解するとともに、残業代請求に必要なことを把握しておくことが重要です。

本コラムでは、残業代請求の失敗例を解説しながら、残業代の適切な請求方法について、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。

1、残業代請求をする前に確認しておくべき6つのこと

残業代請求をするにあたっては、雇用契約の内容をしっかりと確認しておくことが大切です。残業代請求を失敗しないために、知っておくべき雇用形態と確認すべき事柄を解説します。

  1. (1)みなし労働時間制が適用されるケース

    「みなし労働時間制」を導入しているケースでは、残業代請求が認められない可能性があります。
    みなし労働時間制とは、実際の労働時間とは関係なく、あらかじめ就業規則などに定められた労働時間を働いたとみなす制度です。
    たとえば営業職などの外回りや出張が多い職種には、労働時間の算定が難しい事業場外労働に関して、みなし労働時間制が適用されることも少なくありません。

    みなし労働時間が法定労働時間内に定められているときには、時間外労働は発生しないとされます。つまり、残業代の請求はできません。
    ただし、みなし労働時間が10時間などと規定されているときには、法定労働時間である8時間を超える2時間分については、残業代請求が可能です。

    また、みなし労働時間制が適正な手続きをへて運用されていなければ、契約そのものが無効と主張できる可能性があります。たとえば、その事業場外労働をするために、通常所定労働時間を超えて労働することが必要な場合には、会社が勝手にみなし労働時間制を定めることはできません。また、事業場外労働でも労働時間が算定できるときには、みなし労働時間制の適用はありません。

    「その業務をするためには通常、所定労働時間を超えて労働する必要があるにもかかわらず、会社がみなし労働時間制を一方的に知らない間に導入していた」
    「労働時間が算定できる事業場外労働に対してもみなし労働時間制が適用されていた」

    このような場合は、弁護士などに相談してみるとよいでしょう。

  2. (2)裁量労働制が導入されているケース

    会社が裁量労働制を導入しているケースでも、残業代請求が認められない可能性があります。
    裁量労働制とは、業務を遂行する方法や時間配分などが労働者の裁量にゆだねる制度です。裁量労働制は、研究開発や企画立案の業務などに関して導入できます。
    裁量労働制の対象になると、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた労働時間を労働したものとみなされます。

    ただし、みなし労働時間制と同様に、適正な手続きをへて運用されていなければ契約そのものが無効と主張できる可能性があります。

  3. (3)固定給に残業代が含まれているケース

    会社が従業員の給与について、一定時間数の残業代を含む固定給にしているケースでは残業代請求が認められない可能性があります。

    たとえば、「固定給・月給30万円で30時間分の残業代〇〇円が含まれる」と明確に定められているときには、30時間以内の残業については残業代を請求することはできません。
    なお、このケースでも30時間を超える残業については、超えた時間にたいして残業代を請求することは可能です。

    なお、「固定給(残業代全て含む)」というように、何時間相当でいくらの残業代が含まれているかが明確にされていないときには、固定給の規定自体が無効です。
    このようなケースでは残業代の請求ができる可能性があるので、会社側から「残業代も給料に含まれているのだから一切残業代は出ない」などといわれたとしても、諦める必要はないでしょう。

  4. (4)管理監督者に該当するケース

    労働者が管理監督者に該当するのは、経営者と一体的な立場にある場合です。管理監督者となる場合は、労働基準法における労働時間を規定するべき対象から外れるため、残業代請求は認められません。
    しかし、なかには管理職とされていても「管理監督者」に該当すると判断できないケースもあります。このような「名ばかり管理職」であるときには、労働基準法の規定の適用を受けるので、残業代を請求できる可能性があります。

  5. (5)残業代の消滅時効が完成しているケース

    残業代を請求できる権利には、消滅時効があります。
    消滅時効が完成している残業代については、たとえ労働者が残業代請求しても会社に支払う義務はありません。

    なお、2020年4月の改正民法施行により、賃金に関する債権の消滅時効が原則5年とされることを受けて、残業代請求権の消滅時効についても、見直しが図られました。これまでは、過去2年分までしかさかのぼれないとしていましたが、過去3年分までさかのぼって請求することができます。なお、改正民法が適用されるのは、令和2年4月以降に支払われる賃金からです。

  6. (6)証拠が十分でないケース

    残業代請求のよくある失敗例としては、証拠が十分でないケースが挙げられます。
    証拠が十分でなければ会社側を納得させることも難しく、労働審判や裁判になったときでも勝てる見込みが薄くなります。

    このような状態で会社に残業代請求を行ったとしても、門前払いになるだけでなく職場内での居心地が悪くなるなど大きな不利益を被る可能性があるので注意が必要です。

2、残業代請求を成功させるためのポイント

残業代請求は、確実な証拠をもとに弁護士が会社と交渉することで成功する可能性が高くなります。

  1. (1)確実な証拠をそろえる

    残業代を請求するためには、「労働条件」および「残業時間」を示す証拠が必要です。

    労働条件の証拠としては、雇用契約書や就業規則や給与明細などが考えられます。
    残業時間の証拠としては、タイムカードやシフト表のほかに手書きの残業時間を示すメモやメール、会社のパソコンのログイン履歴なども証拠となりえます。

    また、退職してしまうと、さらに証拠の収集は困難を極めます。退職したうえで、残業代を請求する場合は、退職前に可能な限り証拠を収集しておくことが得策といえるでしょう。

    具体的にどのような証拠が必要なのかについては、それぞれのケースで異なります。詳しくは弁護士に相談しながら、証拠の収集をしていくと確実でしょう。

  2. (2)弁護士が代理人となる

    個人が会社と相対するのは、精神的な負担が多いだけではなく、会社の言い分にたいして的確な対応をすることは非常に難しいといえます。
    また、個人が対応すると残念ながら企業が誠意ある対応をしてくれないケースも少なくありません。

    弁護士が確実な証拠をもとに残業代請求をすれば、会社側はトラブルが大きくなる前に解決しようと請求に応じる可能性が期待できます。
    また、弁護士は代理人として会社側と交渉することが可能です。
    早期解決を期待できるだけではなく、交渉も一任できるので、負担は大幅に軽減できるでしょう。

3、残業代請求をする際の注意点

残業代請求で失敗しないために注意すべき点として、主に次のような事項が挙げられます。

  1. (1)残業時間や残業代の計算を正確に行う

    残業代請求においては、証拠をもとにして残業時間や残業代の計算を正確に行うことも重要です。
    単純な残業時間の算出はもちろんのこと、割増賃金なども加味して計算を行う必要があります。たとえば、会社が定める所定労働時間を超えるものの、法定労働時間である8時間以内であれば、法定内労働として割増賃金にはなりません。一方、法定労働時間を超える残業については、法定外残業として割増賃金で計算しなければなりません。

    このような違いに注意しつつ、正確に残業代を算出してから請求しなければ、スムーズに交渉を進めることはできません。

  2. (2)内容証明郵便で請求する

    残業代の請求をする場合は、内容証明郵便など履歴が残るもので送付することが重要です。
    請求を行ったという証拠になるだけではなく、時効による消滅を防ぐためにも重要な役割を果たします。

  3. (3)早期に弁護士へ相談する

    会社側に申し入れをする前に弁護士へ相談することは、残業代請求を失敗しないための対処法としてもっともおすすめといえるでしょう。
    残業代請求の可否判断はもちろんのこと、証拠収集に関するアドバイス、また残業代の正確な算出と会社側へ申し入れまで、全工程を弁護士に任せることができます。

4、まとめ

残業代を請求する場合は、まずは自分自身の雇用契約などを確認したうえで、残業を証明する証拠をそろえることが非常に大切です。しっかりと準備をして臨めば、残業代請求に失敗することなく、労働に対する正当な対価を得ることが期待できるでしょう。

労働問題に関するトラブルは、個人で対応をしても、思うような結果を得られないことが少なくありません。法的知見があり、代理人として会社と交渉ができる弁護士へ依頼することが得策です。
ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士は、未払い残業代に悩む方を全力でサポートします。ぜひお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています