突然の雇い止め……違法となるケースは? 確認すべきことや対処法を解説
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令和元年(2019年)に係る滋賀県の毎月勤労統計調査(年報)によると、同年における滋賀県内の常用労働者数は50万6241人(事業所規模5人以上)で、前年比0.9%の減少となりました。
会社との契約期間を何度も更新していて、今後もずっと仕事を続けられると期待していたにもかかわらず、突然契約終了を通告されるケースが後を絶ちません。
このようないわゆる「雇い止め」は、事情によっては「違法無効」となる場合があります。
もし不合理な雇い止めに遭ってしまった場合は、法律の規定を踏まえて適切な対処を行いましょう。
この記事では、雇い止めが違法無効となるケースについて、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「令和元年毎月勤労統計調査結果報告書」(滋賀県))
1、雇い止めと解雇の違いについて
「雇い止め」は、会社によって強制的に会社を辞めさせられるという点で「解雇」に類似しています。しかし、雇い止めと解雇は、法的には全く異なる概念です。
まずは、雇い止めと解雇がどのように異なるのかについて、基本的な点を押さえておきましょう。
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(1)「雇い止め」は期間満了時に契約更新をしないこと
雇い止めとは、「有期労働契約」の満了時に、会社側の判断で契約を更新せずに終了させることをいいます。
労働基準法第14条第1項によると、有期労働契約の契約期間は、原則として最長3年とされています。
有期労働契約の場合、契約期間が満了する時点で、当事者の合意により契約を更新するかどうかを決めることになります。
この時点で、会社が契約更新を選択せずに契約を終了させることを、一般的に「雇い止め」と呼んでいるのです。 -
(2)「解雇」は期間途中における契約解除
これに対して解雇は、以下のいずれかを意味しています。
- ① 無期労働契約によって雇用している労働者を、会社の都合により解雇すること
- ② 有期労働契約によって雇用している労働者を、契約期間の途中で、会社の都合により解雇すること
つまり、解雇の場合、契約期間満了により労働契約を終了させる雇い止めとは異なり、労働者にとって予期せぬ時期に、会社が一方的に労働契約を終了させることになります。
そのため、労働者を解雇の不利益から保護する必要性は高いと考えられており、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合の解雇は、その権利を濫用したものとして無効となります(解雇権濫用の法理。労働契約法第16条)。
2、雇い止めが違法無効となるケースとは?
雇い止めは解雇とは異なるので、労働契約法上の厳しい「解雇権濫用の法理」は適用されません。
しかし、労働者側から見て「契約更新は間違いないだろう」と期待しても仕方がないような客観的状況があるにもかかわらず、会社の都合で労働契約を終了させることができるとすれば、労働者にとって酷になる場合があります。
そこで、判例上形成されたのがいわゆる「雇い止め法理」であり、平成24年労働契約法改正により明文化されて、会社側からの雇い止めを制限しています。
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(1)労働契約法上の「雇い止め法理」
労働契約法第19条では、以下の要件をすべて満たす場合には、会社は労働者側からの有期労働契約更新の申し込みを拒絶できないとされています。
① 以下のいずれかに該当すること
・有期雇用契約が過去に反復して更新されたことがあり、かつ雇い止めが無期雇用の労働者を解雇する場合と社会通念上同視できること
・契約更新に対する労働者の合理的期待が認められること
② 雇い止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないこと
つまり、労働者を実質的に無期雇用と変わらない形で有期雇用している場合には、解雇権濫用の法理に準ずる厳しい基準により、雇い止めを違法無効とするルールになっているのです。
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(2)雇い止めの違法性の判断における考慮要素
雇い止め法理が適用されるかどうかは、有期労働契約に関するあらゆる事情を総合的に考慮して判断されます。
厚生労働省が定める基準によれば、雇い止めの適法性を判断するためには、特に以下の要素を考慮すべきとされています。
(参考:「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」(厚生労働省))① 業務の客観的内容
仕事の種類・内容・勤務形態などが、正社員と同一の水準といえるかなどが考慮されます。
② 契約上の地位の性格
契約上の地位が基幹的か臨時的かの点や、労働条件が正社員と同一の水準といえるかなどが考慮されます。
③ 当事者の主観的態様
雇用期間や契約更新の見込みなどに関して、会社側から労働者に対して期待させるような言動があったかどうかなどが考慮されます。
④ 更新の手続き・実態
契約更新の回数や勤続年数、契約更新時の手続きの厳格性などが考慮されます。
⑤ 他の労働者の更新状況
同様の地位にある他の労働者に対して、雇い止めが行われているかどうかなどが考慮されます。
⑥ その他
上記以外にも、有期労働契約を締結した経緯や、勤続年数・年齢などの上限設定があるかどうかなどが考慮されます。
3、5年継続で無期雇用に|有期雇用契約の無期転換ルールとは?
有期雇用労働者の契約更新に対する期待を、より強く保護するのが、「無期転換ルール」です。期間の定めのない労働契約に転換されれば、契約期間の定めがなくなるため契約更新の不安がなくなります。
同一の使用者との間で、有期労働契約の更新によって、契約期間が通算5年を超えた場合には、労働者は使用者に対して無期労働契約の締結を申し込むことができます。
このとき、使用者は労働者からの無期労働契約締結の申し込みを拒絶できません。
つまり、雇用期間が通算5年を超えた有期雇用労働者に対して、会社が雇い止めを通告したとしても、労働者が無期雇用への転換を申し込めば、その時点で雇い止めは無効となります。
それ以降、使用者が労働契約を終了させたい場合は、解雇権濫用の法理に基づく解雇の要件を満たさなければなりません。
このように、5年以上の長期にわたって有期雇用が続いている労働者の方は、無期転換ルールが強い味方になります。該当する労働者の方は、利用を検討してみてください。
4、違法な雇い止めにあった場合の対処法
不合理な雇い止めに遭ってしまった場合も、「雇い止め法理」に照らせば違法無効となることがあります。
もし不合理な雇い止めに遭った場合に、労働者として取り得る法的な手段は以下のとおりです。
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(1)従業員としての地位確認を求める
雇い止めが違法無効であれば、労働者は依然として会社の従業員としての地位を保持していることになります。
そのため、不合理な雇い止めに遭った場合は、「自分は依然として会社の従業員である」という確認を会社に対して求めるのが第一の選択肢です。
従業員の地位を保持しているならば、当然その間の賃金は保障されます。
雇い止め以降全く働いていないとしても、期間中別の会社で働いて収入を得ていたなどの事情がない限り、賃金請求権は全額発生します。
よって、従業員としての地位確認と、未払い賃金の支払いを併せて請求すると良いでしょう。 -
(2)会社に損害賠償を請求する
会社を辞めるという前提であれば、会社に対して不法行為に基づく損害賠償を請求することもひとつの方法です(民法第709条)。
違法な雇い止めによって被った精神的損害や、雇い止めがなければもらえるはずだった賃金のうち一定額が損害賠償の対象となります。 -
(3)請求の手段は交渉・労働審判・訴訟
会社に対して従業員としての地位確認(+未払い賃金の支払い)や、不法行為に基づく損害賠償を請求するためには、交渉・労働審判・訴訟のいずれかの方法を採る必要があります。
① 交渉
交渉によって、雇い止めの撤回や金銭の支払いについて合意できるのであれば、時間と手間を節約できるのでベストといえるでしょう。
労働法に基づいて交渉に臨むと、会社からの譲歩を引き出せる可能性が高まります。
② 労働審判
会社との交渉がまとまらない場合は、裁判所に対して労働審判を申し立てることを検討します。
労働審判では、裁判官と労働審判員が労使の言い分を公平に聞くため、法的な観点から客観的な解決が得られます。
また、労働審判は、原則として3回以内の期日で審理が終了するため、訴訟に比べて迅速な解決を図ることが可能です。
③ 訴訟
労使の言い分があまりにもかけ離れている場合には、訴訟で徹底的に争うほかありません。
訴訟では、労働者側の主張を証拠によって立証する必要があるため、専門的な観点から周到な準備を行うことが不可欠です。
5、違法な雇い止めに遭った場合は弁護士に相談を
会社から一方的に雇い止めを言い渡されてしまった場合には、一度弁護士に相談することをおすすめします。
雇い止め法理を適用すれば、不合理な雇い止めは違法無効となる可能性があります。
そうなれば、従業員としての地位を回復できるかもしれませんし、会社から未払い賃金や損害賠償などの金銭の支払いを受けられるかもしれません。
会社に対して、法的にどのような請求ができるかを検討するためにも、一度弁護士にご相談ください。
交渉・労働審判・訴訟によって、実際に会社に対する請求をする際にも、弁護士に相談しておけば安心です。
6、まとめ
有期労働契約を期間満了により終了させる雇い止めは、解雇に比べると規制が緩くなっていますが、「雇い止め法理」を適用すれば違法無効となる場合があります。
もし不合理な雇い止めに遭ってしまった場合は、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスまでご相談ください。
グループ内の労働問題の専門チームと連携しながら、労働者の方の親身になって対応いたします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています