不法占拠者への対処法。 警察は動いてくれる? 強制執行の流れも解説
- その他
- 不法占拠
- 警察
平成27年(2015年)の国勢調査によれば、同年10月1日時点において、草津市内の6万180世帯のうち、持ち家世帯は3万4073世帯でした。
不法占拠者が建物を占有している場合、オーナーとしては、家賃の収益を再開するために迅速な対応が必要になります。不法占拠者に対しては、警察は動いてくれないことが多いので、弁護士に相談して法的手続きを講じましょう。
この記事では、建物の不法占拠者への対処法について、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「草津市統計書 令和元年版」(草津市))
1、不法占拠(不法占有)とは?
所有する土地や建物を第三者に不法占拠されている場合、オーナーが得られる収益がストップしてしまいます。
まずは、「不法占拠」とはどのような状態なのか、どのように解決すればよいのかについて解説します。
-
(1)占有権限がないのに物件を占有すること
「不法占拠」は法律上の用語ではありませんが、一般に「占有権限がないのに物件を占有すること」を意味します。
具体的には、所有者自身、または所有者から占有権限(地上権、賃借権など)の設定を受けた人以外の第三者が土地や建物を占有している場合、そのほとんどが「不法占拠」に当たります。 -
(2)警察は不法占拠者に対処してくれる?
不法占拠に当たる行為は、刑法上の「不動産侵奪罪」(刑法第235条の2)などに当たる可能性があります。
しかし実際には、不法占拠を警察に相談しても、民事上の問題として介入しないという判断がなされることが多くなっています。
これは、不法占拠問題の解決は、基本的に民事上の強制執行手続きによるべきと考えられているためです。
したがって、不法占拠の態様がよほど悪質なケースを除けば、警察ではなく、民事上の法的措置を講ずるために弁護士に相談する方が、早期解決につながりやすいでしょう。 -
(3)不法占拠者に退去を求めるには交渉・訴訟・強制執行
不法占拠者に対して土地・建物からの退去を求めるには、まずは退去交渉を行うのが一般的です。
交渉によって退去が実現すれば、オーナーとしても時間と費用の節約につながります。
しかし、不法占拠者が退去を拒否することも十分に考えられ、その場合は訴訟・明渡しの強制執行の必要があります。
交渉および訴訟・強制執行の進め方や流れについては、後で詳しく解説します。
2、所有者が不法占拠者に主張できる権利について
土地・建物の所有者が不法占拠者に対して行うことができる請求は、主に「所有権に基づく明渡請求」と「不法行為に基づく損害賠償請求」の2つです。
さらに、明渡請求を行う前段階の保全処分として、「占有移転禁止の仮処分」を申し立てることもあります。
-
(1)所有権に基づく明渡請求
土地・建物の所有権者は、不法占拠者に対して、当該土地・建物の返還を請求する権利を有します(物権的請求権)。
所有権に基づく(返還請求権としての)明渡請求を行うには、所有者は以下の事実を立証することが必要です。- ①所有者が、当該土地・建物を所有していること
- ②不法占拠者が、当該土地・建物を占有していること
これに対して、不法占拠者によって占有権限等の立証がなければ、所有権に基づく明渡請求が認められます。
-
(2)不法行為に基づく損害賠償請求
土地・建物が不法占拠されている場合、所有者は使用収益を妨害されることによって損害を被っています。
そのため、所有者は不法占拠者に対して、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償を請求できます。
不法行為に基づく損害賠償請求を行う場合、所有者は、前述の明渡請求の要件に加えて、不法占拠によって被った損害の内容および金額(賃料相当損害金)を立証することが必要です。 -
(3)占有移転禁止の仮処分
不法占拠者に対する明渡請求が訴訟で認められたとしても、その間に、不法占拠者が勝手に第三者へと占有を移してしまったら、その第三者に対して改めて明渡請求をしなければならなくなってしまいます。
このような事態を防ぐには、あらかじめ裁判所に「占有移転禁止の仮処分」(民事保全法第62条第1項)を申し立てる方法が有効です。
占有移転禁止の仮処分が執行されると、もともとの不法占拠者に対して明渡しを命ずる確定判決に基づき、占有を承継した第三者に対しても明渡しを求めることができます。
3、不法占拠者との退去交渉の進め方
所有者が不法占拠者に対して土地・建物の明渡しを求める場合、訴訟を提起する前に、退去交渉からスタートするのが一般的です。
-
(1)期限を定めて明渡しを催告する
まずは、不法占拠者に対して内容証明郵便を送付し、期限を定めて明渡しを催告します。
そのうえで、任意に立ち退かなければ訴訟を提起する旨を警告しましょう。
また、訴訟に発展することで不法占拠者が被るデメリットを指摘して、説得を試みることも考えられます。 -
(2)早めに法的手続きへ移行するのが賢明
しかし、実際には不法占拠者が任意の立ち退きに応じるケースは少なく、退去交渉は徒労に終わる可能性が高いです。
賃貸借契約が終了した後で賃借人が居座っている場合であれば、未払い賃料の一部を免除する、立ち退きまでの猶予期間を与えるなどの対応を交渉材料にできます。
しかし、もともと何の権限もない不法占拠者が土地・建物に居座っている場合には、オーナー側としても譲歩すべき材料がありません。
したがって、不法占拠者が任意に退去しない場合には、早めに訴訟へと移行するのが賢明でしょう。 -
(3)自力救済はNG
不法占拠者が居座っている場合でも、オーナーが力ずくで占有を奪還する行為は違法となることに注意が必要です。
たとえば、オーナーが以下に挙げる行為をすることは、厳に慎みましょう。- 建物の鍵を無理やり開ける行為
- 建物の鍵を勝手に交換する行為
- 居室内の荷物を勝手に搬出する行為
- 暴行や脅迫を用いて退去を迫る行為 など
4、建物明渡請求訴訟・強制執行の手続きの流れ
不法占拠者との間で退去交渉が奏を功しなければ、訴訟・強制執行の手続きへと移行するほかありません。
以下では、建物明渡請求訴訟のケースを例にとって、訴訟・強制執行の手続きの流れを解説します。
-
(1)訴訟の提起
建物明渡請求訴訟を提起するには、オーナーは原告として、管轄裁判所に対して訴状を提出する必要があります(民事訴訟法第133条第1項)。
建物明渡請求訴訟の管轄裁判所は、以下のいずれかとなります。- 被告の住所地等を管轄する地方裁判所または簡易裁判所(同法第4条第1項)
- 建物の所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所(同法第5条第12号)
なお、訴額が140万円を超える場合には、地方裁判所への訴訟提起が必須となります。
建物明渡請求訴訟の訴額は、建物の固定資産税評価額の2分の1です。 -
(2)口頭弁論期日における主張・立証
オーナーが裁判所に対して訴状を提出すると、裁判所により第1回口頭弁論期日が指定されます。
口頭弁論期日では、当事者双方により、請求に関する事実の主張・立証が行われます。
オーナーとしては、前述の明渡し要件に該当する事実につき、証拠等を用いて立証する必要があります。
口頭弁論期日は、裁判所が判決を言い渡すのに十分な心証を形成するまで何度でも設定され、心証形成が完了した時点で終結されます。 -
(3)判決の確定
口頭弁論期日における主張・立証の結果をもとに、裁判所は判決を言い渡し(民事訴訟法第243条第1項、第250条)、上訴手続き(控訴・上告)を経て判決が確定します。
不法占拠者に対して明渡しを命ずる判決が確定した場合、オーナーは確定判決の正本を用いて、裁判所に強制執行の手続きを申し立てることができるようになります(民事執行法第22条第1号)。 -
(4)明渡しの強制執行
オーナーが裁判所に対して強制執行の申立てを行うと、以下の流れで明渡しの強制執行が進行します。
- ①明渡しの催告(民事執行法第168条の2第1項)
執行官が不法占拠者に対して、1か月以上の後の期限を定めて、明渡しを催告します。 - ②執行官の立ち会いによる開錠・鍵交換・荷物の搬出等(同法第168条第1項)
明渡し期限を過ぎても、不法占拠者が建物から退去しない場合、オーナーが業者を手配したうえで、執行官立ち会いの下で明渡しが断行されます。
その場で開錠・鍵交換・荷物の搬出などを行い、不法占拠者の占有を強制的に解除します。 - ③執行官からオーナーに対する鍵の交付(同)
②の作業が完了したら、最後に執行官からオーナーに新しい鍵が交付され、明渡しの強制執行は完了です。
- ①明渡しの催告(民事執行法第168条の2第1項)
5、まとめ
不法占拠者に土地や建物を占拠されている場合、警察ではなく弁護士に相談して対応する方が、スムーズな明渡しの実現につながりやすいでしょう。
早期に明渡しを実現するためには、ある程度のところで退去交渉に見切りを付けて、訴訟・強制執行の手続きへと移行することをお勧めいたします。
ベリーベスト法律事務所では、不法占拠問題にお悩みのオーナーのために、明渡しの早期実現を目指して尽力いたします。
土地・建物の不法占拠にお悩みの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスにご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|