「頭金返せ」と言われた! 離婚における住宅ローン問題の法的対策

2025年01月29日
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「頭金返せ」と言われた! 離婚における住宅ローン問題の法的対策

滋賀県の土地統計調査によると、平成30年の滋賀県内の持ち家は38万9000戸で、居住世帯のある住宅の総数に占める割合(持ち家率)は、71.6%となっています。

夫婦がマイホームを購入する際、頭金として親からの援助や婚姻前の預貯金などの“特有財産”から支出することはよくあります。しかし、後に離婚する際、相手から「頭金返せ」と要求されて問題となるケースがあります。

今回は、「頭金返せ」と言われたときの対処法、離婚時の住宅ローン問題の法的対策などについて、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。


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1、離婚の際に「頭金返せ」と言うのは正当な要求?

離婚の際に自宅を購入したときの頭金返せといわれたらどのように対処すればよいのでしょうか。以下では、「頭金返せ」と言われる状況に応じた対処法を説明します。

  1. (1)頭金を借りたのなら返還が必要

    自宅を購入する際に支出した頭金が相手から「借りた」お金である場合、法的には、返還が必要なお金になります。

    もっとも、夫婦間では借用書を作成することはほとんどありませんので、「借りたお金」なのか「もらったお金」なのかが曖昧になることが多く、返還すべきか微妙なケースが多いのが実情です。「頭金返せ」と主張する側が貸したお金であることを立証していかなければなりません

    相手が貸したお金であることの立証ができなければ、返還に応じる必要はありません。

  2. (2)頭金をもらったのなら返還は不要

    自宅を購入する際に支出した頭金が相手から「もらった」お金である場合、法的には贈与契約が成立していますので、返還は不要なお金になります。

    自宅を購入する際には、親からの援助や婚姻前から貯めていたお金を頭金として支出することが多いですが、ほとんどのケースではもらったお金という認識だと思います。このようなケースであれば、相手から「頭金返せ」と言われたとしても、原則として返還に応じる必要はありません。

  3. (3)返還が不要な場合でも財産分与で考慮される

    頭金の返還が不要なケースであっても、頭金の金額が財産分与で考慮されることがあります。

    財産分与とは、離婚する際に夫婦が協力して築いた財産を清算することができる制度です。婚姻中に自宅を購入した場合、夫婦のどちらが名義人かにかかわらず、自宅も財産分与の対象になります。

  4. (4)頭金に“特有財産”が含まれていた場合

    頭金に親からの援助や婚姻前に貯めた預貯金などが含まれている場合、夫婦の協力とは無関係な特有財産にあたりますので、財産分与から除外して考えなければなりません

    たとえば、以下のケースで想定してみましょう。

    自宅購入時の金額:5000万円
    頭金:1000万円(妻が婚姻前に貯めた預貯金)
    住宅ローン:4000万円
    自宅の名義人:夫
    --------
    住宅ローンの残額:2000万円
    現在の自宅の評価額:3000万円


    妻が婚姻前に貯めた預貯金は“特有財産”となるため、現在の価値に直した600万円(1000万円の5分の3)を特有財産として考慮しなければなりません。

    そのため、自宅の評価額1000万円から住宅ローン600万円を差し引いた、400万円が財産分与の対象となり、それを夫婦で2分の1ずつ取得することになります。

    このように財産分与で考慮された結果、事実上、頭金を返還したのと同様の効果が生じることもあります。

2、離婚時に発生する住宅ローン問題と対策

以下では、離婚に伴い発生しうる住宅ローン問題とその対策方法を説明します。

  1. (1)離婚の際によくある住宅ローンのトラブル

    離婚の際に問題化しやすい住宅ローンにまつわる問題としては、以下のようなものがあります。

    ① オーバーローンの状態になっている
    住宅ローンの残額が自宅の価値を上回っている状態を「オーバーローン」といいます。不動産の価値は、購入時をピークに減少する傾向にありますので住宅ローンの返済期間が短いとオーバーローンの状態になることも少なくありません。

    このようなオーバーローンの状態では、自宅以外の他の資産がなければ自宅を財産分与できない可能性もあります

    ② 住宅ローンの名義変更は容易ではない
    自宅と住宅ローンの名義人が夫で、離婚後も引き続き夫が住み、返済を続けるのであれば、特別な処理は必要ありません。

    一方、妻が自宅に住み、夫が出ていくケースでは、住宅ローンの名義人を妻にすることが望ましいでしょう。しかし、離婚という事情のみで、金融機関が住宅ローンの名義変更に応じる可能性は非常に厳しいといえます。また、妻が住宅ローンの借り換えをすることで名義変更をする方法もありますが、妻の収入によっては住宅ローンの審査が通らないこともあります。

    ③ 勝手に自宅の名義変更をすると一括返済を求められるリスクがある
    財産分与のために自宅の名義変更をする場合にも、住宅ローンが残っていれば金融機関の同意が必要になります。

    金融機関の同意なく自宅の名義変更をしてしまうと住宅ローンの条件違反を理由として、残債務の一括返済を求められるリスクがありますので注意が必要です
  2. (2)住宅ローン問題を回避するための対策

    住宅ローン問題を回避するためにできる事前の対処法には、以下のようなものがあります。

    ① 自宅の評価額を調べる
    まずは、オーバーローンか見極めるために自宅の評価額を調べます。自宅の評価額は、不動産会社に依頼すれば無料で査定を行ってくれますので、それで評価額を把握することができます。

    ただし、不動産会社によって査定額に差がありますので、複数の不動産会社に査定を求めるとよいでしょう。

    ② 住宅ローンの残債務を調べる
    住宅ローンの残債務によって、自宅が財産分与の対象になるかが変わりますので、自宅の評価額と並行して住宅ローンの残債務も調べるようにしてください。

    住宅ローンの残債務を調べる際には、残債務の金額だけでなく、住宅ローンの名義や種類(ペアローン、連帯債務、単独債務など)も明確にしておくことが大切です。

    ③ 金融機関に事前に相談をする
    自宅や住宅ローンの名義変更を予定している場合には、事前に金融機関に相談をしておくとよいでしょう。事前に相談しておけば、名義変更の際に手続きがスムーズに進みますし、事前審査により住宅ローンの借り換えが可能であるかを把握することができます。

3、冷静な話し合いで早期離婚を目指す方法

早期離婚を目指すのであれば、以下のような方法で離婚の話し合いを進めていくとよいでしょう。

  1. (1)離婚時に決めるべき事項を洗い出す

    離婚時には、財産分与以外にも以下のような事項を決める必要があります。

    • 親権
    • 養育費
    • 慰謝料
    • 面会交流
    • 年金分割


    各事項についてどのような条件での離婚を希望するのか自分の考えを明確にしておくことで、スムーズに話し合いを進めることが可能になります。

  2. (2)財産を把握する

    財産分与では、不動産以外にも「預貯金」「有価証券」「保険」「退職金」なども共有財産に含まれますので、どのような財産があるかを事前に把握することが大切です。

    自分名義の財産であれば把握するのも容易ですが、相手名義の財産になると簡単には調査ができません。財産隠しの不安があるときは、弁護士に相談して相手の財産を調査してもらうとよいでしょう。弁護士は、不動産登記の確認などの手段で財産調査のサポートをします。

  3. (3)冷静な話し合いのために必要な心構えと対応方法

    夫婦2人だけで話し合いをすると感情的になってしまうという場合には、親や親族などの第三者に頼んで話し合いの場に同席してもらうとよいでしょう。

    また、離婚時には「親権」や「養育費」、「財産分与」など、決めるべき事項が多数ありますので、口頭での合意だけではどのような内容を取り決めたのかが曖昧になってしまいます。そのため、合意した内容は必ず離婚協議書などの書面に残しておくようにしましょう。こうすることで離婚時のトラブルを大幅に減らすことができます。

4、弁護士のサポートを受けるべきケース

以下のようなケースに該当する場合、離婚時にトラブルが生じる可能性がありますので、弁護士のサポートを受けるのがおすすめです。

  1. (1)相手と話をするのが負担に感じるケース

    離婚の話し合いは精神的な負担が大きいものです。自分だけで対応するのが大変だと感じる方も少なくありません。

    弁護士であれば代理人として相手と交渉ができますので、離婚の話し合いの負担を大幅に軽減することができます。少しでも負担を軽減したいという方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

  2. (2)決めなければならない離婚条件が多く、複雑なケース

    離婚条件の取り決めにあたっては、法的知識や経験が必要になります。不利な条件であることに気付かずに離婚に応じてしまうリスクを回避するためには、早い段階で弁護士に相談することが有効です。

    特に、慰謝料、養育費、財産分与などのお金が絡んでくる場合は、弁護士のサポートが重要です。弁護士であれば、相場を踏まえた適切な条件で離婚に向けた話し合いを進めることができます。

  3. (3)話し合いで解決するのが困難なケース

    当事者同士の話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所に離婚調停の申立てや離婚訴訟の提起が必要になります。

    相手との話し合いがこじれる可能性が高い場合は、将来の法的手続きに備えて早めに弁護士に相談しておくのがおすすめです。

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5、まとめ

住宅購入費用の一部を頭金として支払っていた場合、離婚時に相手から「頭金返せ」と言われることがあります。夫婦間で頭金の貸し借りが行われているケースはまれですので、基本的には贈与にあたり、返還は不要となる場合が多いと考えられます。

もっとも、頭金が特有財産にあたる場合、財産分与での考慮が必要になる可能性もありますので、不安な場合は弁護士に相談するとよいでしょう。

離婚や財産分与でお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています