名義貸しは違法? 名義貸しのパターン・リスク・違法性を弁護士が解説
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東京商工リサーチ滋賀支店のデータによると、滋賀県内における2020年中に休廃業または解散した企業は372件に上り、前年比58%の増加となりました。
融資やビジネス上の契約を締結する際、取引を行う本人ではない人(会社)の名義を使うことは違法です。この場合、名義貸しをした側も法的なペナルティーを受ける可能性があるので、友人・知人から頼まれたとしても、名義貸しを行うことは絶対に避けましょう。
この記事では、名義貸しのパターン・リスク・違法性などを中心に、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。
(出典:「滋賀県内20年の休廃業・解散が最多372件 前年比58%増、コロナ流行も契機に」(京都新聞))
1、名義貸しとは?
名義貸しとは、取引に関する契約を締結する際に、取引を行う本人ではない人(会社)があたかも契約者であるかのように相手方に提示したり、実際の契約書に本人ではない人が調印したりすることをいいます。
名義貸しは、後述するようにさまざまな動機によって行われますが、いずれも相手に対して「うその情報」を伝えている点で大きな問題があります。
取引の名義を偽る行為がなされた場合、名義を偽った人(会社)だけでなく、名義貸しをした人(会社)も法的な責任を負担しなければならない可能性があるため、違法・不当な名義貸しには絶対に関与してはいけません。
2、名義貸しが行われる典型的なパターン
名義貸しが行われる代表的なパターンを三つ紹介します。
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(1)金融ブラックの人が金を借りるために名義貸しを依頼する
過去に消費者金融などから借りた借金の債務不履行を起こしたり、破産・個人再生・任意整理などの債務整理を行ったりすると、いわゆる「金融ブラック」の状態になります。
金融ブラックとは、信用情報機関の保有する事故情報リスト(ブラックリスト)に掲載され、各金融機関などからの与信(ローンやクレジットカードによる信用供与、携帯電話端末の分割払いなど)が受けられない状態をいいます。
金融ブラックの人は、債務不履行や債務整理が発生してから5年~10年の間、ローンを組んだりクレジットカードを作成したりすることができません。
このブラックリスト掲載期間中に、車の購入や事業投資などでどうしてもローンを組みたいと考えた場合に、金融ブラックでない人に対して名義貸しを依頼するというケースがよく見られます。 -
(2)取引上の信頼を得るために名義貸しを依頼する
ビジネス上の契約では、相手方がどの程度信頼できるかという点が極めて重要です。
たとえば大企業である、有名な経営者がバックについているなどの事情があれば、一緒にビジネスをしたいと考える取引先は増えるでしょう。
このことを利用して、実際には全く取引とは関係がない大企業や有名経営者を架空の名義人として、好条件で取引を受注しようとするパターンが稀に見られます。
相手方としては、大企業や有名経営者の信用力を当てにして取引を始めたにもかかわらず、途中でそれが架空のものだったとわかるのですから、不測の損害を被ってしまいます。 -
(3)必要な許認可などを持っている会社に対して名義貸しを依頼する
新規ビジネスを始める際に、ビジネスの内容によっては、業法上の許認可が必要なケースがあります。
(例)宅建士(宅建業者、宅地建物取引士、宅地建物取引主任者)、金融・決済系のビジネス、各種士業など
許認可を取得しようとすると、膨大な書類をそろえて監督官庁に提出し、その後監督官庁との間で綿密な折衝を行わなければならず、かなり長期間にわたる準備が必要です。
この許認可取得の手間や時間を省略するために、すでに許認可を持っている業者に対して名義貸しを依頼し、その会社の名義でビジネスに関する契約を締結するというパターンが見られます。
3、名義貸しの違法性とリスク
ビジネス上の取引において名義を偽ることは、多くの場合違法となります。
名義を偽った本人だけでなく、名義貸しを行った人についても、以下の法的なリスクを負いかねないので、違法な名義貸しには加担しないようにしましょう。
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(1)詐欺罪の共同正犯または幇助に当たり刑事罰を受ける
取引上の名義を偽るということは、相手方に対して、取引当事者に関するうその情報を伝えて契約を締結させることを意味します。
特に、ローンなどの金銭の交付を目的とした契約の場合、名義を偽って契約を締結する行為は「詐欺罪」(刑法第246条第1項)に該当する可能性があります。
そして、名義貸しを行った人についても、果たした役割の重要性や関与の度合いなどに応じて、詐欺罪の共同正犯(刑法第60条)または幇助犯(刑法第62条第1項)が成立します。詐欺罪の共同正犯の場合の法定刑は「10年以下の懲役」、幇助犯の場合の法定刑は「5年以下の懲役」です。
いずれも極めて重い刑事罰が科される可能性があるので、安易な名義貸しを行ってはいけません。 -
(2)本人の契約責任を連帯して負担することになる
商人が名義貸しを他人に対して行った場合、その名義を信頼して取引関係に入った相手方に対しては、その取引によって生じた債務を、当該他人と連帯して弁済する責任を負います(商法第14条)。
また、商人ではない場合であっても、権利外観法理によって同様の契約責任を負う可能性があります。
名義貸しを行った人が、実際には取引に全く関与していなかったとしても、相手方との関係では、そのような言い訳は通用しないので注意しましょう。 -
(3)契約違反として損害賠償義務を負う
取引に関する契約では、「契約当事者本人が取引を行うこと」が当然の前提となっています。
したがって、もし名義貸しが契約締結後に発覚した場合、取引に関する信頼関係を破壊する行為として、契約の解除事由に該当する可能性があります。
この場合、名義を偽った本人とともに、名義貸しを行った人(会社)も連帯して、相手方に対する損害賠償責任を負担するおそれがあります。 -
(4)業法上も違法となる可能性がある
許認可を取得する手間や時間を惜しんで、すでに許認可を持っている会社の名義を冒用(権利者の同意を得ずに使用すること)してビジネスを行うことは、業法上違法となります。
この場合、名義貸しを行った会社に対しても、以下の法律上のペナルティーが課される可能性があります。- 許認可の取り消しなどを含む行政処分
- 課徴金の納付
- 刑事罰
どのようなペナルティーが課されるかは業法の内容にもよりますが、特に許認可の取り消しを受けてしまった場合、今後そのビジネスを自社で行うことができなくなってしまいます。
違法な名義貸しに関与したばかりに、苦労して取得した許認可を失うことになってしまっては本末転倒です。
4、名義貸しを頼まれた、名義貸しをしてしまった場合の対処法
友人や知人の経営者などから名義貸しを依頼された場合や、依頼に応じて実際に名義貸しをしてしまった場合には、事態が深刻化しないうちに以下の対応をとることをおすすめします。
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(1)違法性やリスクを説明して断る
再三解説したとおり、名義貸しは多くのケースで違法となります。
名義貸しを依頼する側としては、さまざまな事情があるものと思われますが、どのような動機であっても、名義を偽ってビジネスを行うことが最終的に良い結果をもたらすことはありません。
もし友人や知人の経営者から名義貸しを依頼された場合には、名義貸しに関する違法性や法的リスクをきちんと説明し、毅然(きぜん)とした態度で断ることが大切です。 -
(2)名義貸しをしてしまったら弁護士に相談を
万が一、依頼に応じて実際に名義貸しを行ってしまった場合には、弁護士に相談のうえで早急に事態の収拾を図ることをおすすめします。
一度名義貸しを行ってしまうと、ご自身や会社の名義を使って広くビジネスが展開されてしまいます。
取引先が拡大してから名義貸しが判明した場合、ご自身や会社の評判が大きく傷つけられてしまうことは確実です。
また、名義貸しによる被害が拡大すればするほど、名義貸しを行った方が負う民事・刑事・行政上のペナルティーは重くなります。
違法な名義貸しに加担してしまった場合、法的・社会的に重い制裁を受けることを回避するためにも、一刻も早くベリーベスト法律事務所へご相談ください。
弁護士が早急な対応により、事態の収拾を図ります。
5、まとめ
取引上の名義を偽ることは、相手方の信頼を悪用する違法行為です。
名義を偽った本人とともに、名義貸しを行った人(会社)についても、民事・刑事・行政上の法的な制裁を受けることになってしまいますので、違法な名義貸しに加担することは絶対に避けましょう。
万が一、違法な名義貸しに加担してしまった場合には、速やかベリーベスト法律事務所にご相談ください。迅速かつ丁寧な対応により、名義貸しによる被害が拡大することを食い止め、依頼者が法的・社会的に重い制裁を受けることが回避されるように尽力いたします。
違法な名義貸しの依頼を受けてお困りの方、実際に違法な名義貸しを行ってしまった方は、お早めにベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスにご相談ください。
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