借金の肩代わりが必要なケースとは? 回避する方法はある?

2024年07月24日
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借金の肩代わりが必要なケースとは? 回避する方法はある?

借金の肩代わりとは、ご自身ではなくほかの方がした借金(債務)を代わりに引き受けることを指します。

言うまでもなく、他人の借金を理由もなく肩代わりする必要はありません。しかし、やむなく肩代わりせざるを得ない、というケースがあります。その代表的な例は、連帯保証人となっていた場合や、相続人となったケースです。

本コラムでは、親の借金など、借金の肩代わりをしなければならないケースから、連帯保証人・保証人の概要と対処法について、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。

1、借金の肩代わりをしなければならないケース

親がした借金に対して子どもが返済の義務を負うのは、どのようなケースなのか解説します。

  1. (1)借金の連帯保証人・保証人になっていた場合

    親が借金をする際に、子どもが連帯保証人または保証人になっていた場合は、(連帯)保証人として返済する義務があります

    保証人は主債務者が借金の返済をできなくなった時にはじめて返済義務を負いますが、連帯保証人は、借主と同じ立場で返済をする義務があります。借主本人が返済をしない場合は、保証人も連帯保証人も返済をしなければなりません。

    なお、金融機関や消費者金融からの借金で保証人になる場合は、ほぼ例外なく連帯保証人にされるので、本記事では連帯保証人について解説します。

  2. (2)借金を相続した場合

    仮に親が借金を残して亡くなった場合、子どもは法定相続人となるため、親の財産だけではなく、借金も相続することになります。

    相続人が複数人いる場合は、法定相続分に応じて借金の返済義務も相続します。

    たとえば、借金を残した親が亡くなった時点で、配偶者と子ども2人が存命の場合の法定相続分は、配偶者が「2分の1」、子どもが「4分の1」ずつの割合です。

  3. (3)名義を使われた場合

    親が借金をする際に、借主または連帯保証人として子どもの名義を使って契約した場合はどうでしょうか。

    子どもがそのような契約をすることを了解して、親に名義を貸していた場合は、契約について同意していたと見られるので、返済義務があると考えられます。

    一方で、勝手に借主または連帯保証人として名義を使われた場合は、原則として返済義務はありません。このようなケースは「名義冒用」といい、契約書に勝手に自分の名前が書かれていたとしても、契約をする意思が伴わないので、契約の効力は及びません。

    ただし、勝手に名前を使って契約されたケースでも、実際に返済したり、債権者に返済を約束したりすると、契約を追認したことになって返済義務が生じることになります。

    親が勝手に名義を使った行為は無権代理に該当し、名義を使われた本人に効果が及ぶことはありませんが、本人が追認した場合は、契約時にさかのぼって契約の効力が生じることになるのです。

2、連帯保証人をやめることはできる?

連帯保証契約を解除したいと考えた場合、方法はあるのでしょうか。解除が難しいイメージのある連帯保証人ですが、一定の条件をクリアすれば解除できる可能性があります。以下、解説します。

  1. (1)債権者と合意できる場合

    連帯保証契約は、債権者と連帯保証人との契約なので、この両者の合意があれば契約を解除して、連帯保証人の責任を逃れることができます。

    ただ、現実には債権者が無条件で連帯保証契約の解除に応じることは、あまり考えられません。

    しかし、以下のような場合は、債権者が連帯保証契約の解除に応じる可能性があります

    ① 残債務が少ない場合
    借金の返済が進んで残額が少なくなった場合は、連帯保証人の必要性も低くなることから、連帯保証契約の解除に応じてもらえる可能性もあると考えられます。

    ② 代わりの連帯保証人を立てる
    資力が十分にある連帯保証人を代わりに立てることができれば、債権者も借金回収の確実性を損なうことがないので、連帯保証契約の解除に応じてもらえる可能性は高いと考えられます。

    ③ 不動産などの担保を提供する
    債務の額に見合った担保余力のある不動産などを担保として提供することができれば、連帯保証契約の解除に応じてもらえる可能性はあります。
    担保の提供とは、不動産に抵当権を設定するようなことをいいますが、不動産の所有者は、借主や連帯保証人以外の第三者でも構いません。不動産などの担保を提供する人を「物上保証人」といいますが、物上保証人は担保物件を失う可能性はあるものの、それ以上に返済の責任を負うことはありません。
  2. (2)連帯保証契約の無効を主張する

    連帯保証契約を締結する際、借主に名義を冒用された場合は、連帯保証契約の無効を主張することができます(対処方法は第4章で解説)。

    なお、借主が連帯保証人の名義を冒用して借金をした場合、借主は債権者をだまして借金をしたことになるので、民事上、刑事上の責任を追及される可能性があります

    具体的には、以下のような責任が考えられます。

    • 民事責任:借主が借金の一括返済を請求される
    • 刑事責任:借主が有印私文書偽造・同行使罪、詐欺罪などの罪に問われる
  3. (3)借金に時効が成立する場合

    借金を長期間返済していない場合は、時効を援用することにより借金の返済義務が消滅することがあります。

    銀行や消費者金融からの借金の時効期間は原則として5年です。ただし、借金の返済義務が時効により消滅するためには、以下の条件を満たす必要があります。

    • 借主または連帯保証人が、時効期間中に返済をしたり、返済の約束をしたりしていないこと
    • 債権者が、時効を更新する行為(訴訟提起など)をしていないこと


    実際には、銀行などからの借金で時効が成立することはめったにないのが実情です。

3、借金を相続しない方法

借金を相続したくない場合は、相続放棄または限定承認の手続きをとることになります。
これらの手続きについて解説します。

  1. (1)相続放棄

    相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産や負債などの権利や義務を一切引き継がないことをいいます。

    相続放棄は、相続の開始を知った時(通常は被相続人が亡くなった時)から3か月以内に、家庭裁判所で申述の手続きをすることで行うことができます。

    なお、相続放棄をする場合は、2つの注意点があります。

    1点目は、「単純承認」とみなされる行為をしないということです。単純承認とは、無条件で相続財産を相続することです。相続財産を売却したり、被相続人の預貯金を生活費に費消したりするような行為をすると、単純承認したとみなされることになり、相続放棄ができなくなってしまいます

    2点目は、後順位の相続人に配慮が必要ということです相続人になった子ども全員が相続放棄をした場合、次の順序で親族が相続人になります

    • 第2順位:被相続人の直系尊属(親や祖父母)
    • 第3順位:被相続人の兄弟姉妹


    これらの親族も借金を相続したくない場合は、順次相続放棄の申述をしてもらう必要があるので、連絡を欠かさないようにしましょう。

  2. (2)限定承認

    限定承認とは、相続財産で被相続人の借金を清算し、残った財産のみを相続することをいいます。

    複数の相続人がいる場合は、相続人全員で限定承認の申述をする必要があります。相続の開始を知った時から3か月以内に申述の手続きをする必要があること、単純承認をしたとみなされる行為をした場合は申述できないことは、相続放棄と同様です。

    限定承認の手続きのおおまかな流れは次のとおりです。

    • ① 家庭裁判所による書面審理、申述受理の審判
    • ② 請求申出の官報公告
    • ③ 相続財産の換価
    • ④ 債権者への弁済・配当


    限定承認は、相続財産を原則としてすべて売却し、その売却代金の中から債権者に配当を行う複雑な手続きです。

    3か月の申述期間内にすべての相続財産や借金を調査して財産目録を作成するなどの準備も必要なので、一般の方が自分で行うのはハードルが高い手続きといえます。限定承認の申述を検討している場合は、早めに弁護士などのサポートを受けることをおすすめします。

4、身に覚えのない借金の名義人にされていた時の対処法

債権者から身に覚えのない借金の返済を請求された場合の対処法や注意点を解説します。

なお、ここでは名義を冒用(同意を得ずに名義等を利用すること)して契約されたケースを想定していますが、架空請求による詐欺被害も多発しているので、慌てず冷静に対処しましょう。

  1. (1)債権者に連絡して契約書などを取り寄せる

    自分自身で契約したことがなければ、債権者に契約書の写しを交付してもらうなどして、契約書の署名欄の筆跡や印影、契約の内容を確認します。

    債権者に対しては、すぐに返済したり、返済の約束をしたりしないようにしましょう。仮に親に名義を冒用されていた場合、他にも借金をしている可能性があり、借金の全容を確認した上で対処方法を検討するのが賢明です。

  2. (2)請求に応じない場合は内容証明郵便で通知する

    借金の返済に応じないことにした場合は、債権者に「名義を冒用されたこと」「返済の意思がないこと」を通知します。

    後に債権者から「借金の返済を約束した」「契約を追認した」などと主張される可能性があるので、通知内容の証拠が残る内容証明郵便で通知書を送付するのが一般的です。

  3. (3)裁判に備えて弁護士に相談する

    返済の意思がないことを通知しても、債権者がそのまま引き下がるとは限りません。債権者が納得しない場合は、裁判を起こされる可能性が高くなります。

    また、債権者の請求が続くようであれば、支払い義務がないことを裁判所で判断してもらうために「債務不存在確認」の裁判を起こすことも可能です。

    裁判になった場合は、お互いの言い分が食い違うことになるので、名義を冒用された証拠を用意して主張、立証する必要があります。裁判で敗訴すると、支払い義務について争うことができなくなるので、早めに弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

  4. (4)債務整理の検討をする

    自分自身で契約したわけではないとしても、親の借金なので肩代わりするという判断もあり得るでしょう。

    また、親が他にも借金していて返済が難しいようであれば、借金の問題をトータルで解決するほうが望ましいといえます。

    自分自身や親の借金の返済が苦しい場合は、以下の債務整理をおすすめします。

    • 任意整理:債権者と直接交渉して、利息の減免など譲歩してもらった上で分割返済する方法
    • 個人再生:裁判所に申し立てをして、借金を大幅にカットしてもらった上で分割返済する方法
    • 自己破産:裁判所に申し立てをして、借金をすべて免除してもらう方法


    これらの方法はそれぞれメリットとデメリットがあり、借金の規模や財産の状況によって適切な手続きも異なってきます。債務整理を検討する場合は、弁護士に相談して、自分にとって最適な債務整理の方法を提案してもらうことをおすすめします

  5. (5)借金の肩代わりをすると贈与税が課税されることがある

    借金の肩代わりをすると、肩代わりして支払った金銭が贈与とみなされて、贈与税が課税される可能性があることも踏まえておく必要があります

    贈与税は、贈与額が年間110万円を超えた場合が課税対象になります。なお、借金の肩代わりではなく、返済資金を貸し付けて返済してもらうことにすれば、贈与税はかかりません。

    しかし、借用書を作成したり、返済期日、利息の定めなどをしていなかったりすると、貸し付けを装った贈与として税務署の指摘を受ける可能性もあるので、注意が必要です。

5、まとめ

親の借金について子どもが返済義務を負うのは、連帯保証していた場合、名義貸しをしていた場合、借金を相続した場合が挙げられます。名義を勝手に使って契約されていた場合は、基本的に返済義務はありません。

借金の肩代わりをすることも選択肢になりますが、他にも借金がある場合は、債務整理により解決することも検討したいところです。

ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスでは、借金や相続の問題、債務整理に関するご相談を随時承っております。事態が深刻になってしまう前にお問い合わせください。

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