遺留分とは|権利を持つ人や請求できる割合についてわかりやすく解説

2024年09月26日
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遺留分とは|権利を持つ人や請求できる割合についてわかりやすく解説

令和5年の裁判所司法統計によると、大津地方裁判所だけで5件の遺留分放棄の許可の申し立てがありました。遺留分とは、相続人に保障された最低限度の遺産相続をする権利のことです。

遺留分放棄の件数が比較的少ないことを考えると、その反面、多くの方が遺留分を有している可能性があるのではないでしょうか。

本コラムでは、遺留分請求がそもそもどのような権利なのかわかりやすく知りたい方へ向けて、遺留分の基礎知識や請求できる割合について、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説します。


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1、遺留分とは? 基礎知識をわかりやすく解説

「生前から他の兄妹姉妹ばかりが優遇され、まさか死後まで優遇されるなんて…」と不平等な遺言が発見されたとしても安心してください。法律上、相続人には、遺留分という相続財産のうち一定の割合で財産を受け取ることができる権利が保障されています。しかし、遺留分を受け取るためには、いくつかの条件があるため、遺留分の基礎知識から確認しましょう。

  1. (1)遺留分とは相続人に認められた権利

    遺留分とは、一定の範囲の相続人に認められた最低限度の相続財産の取得割合です。たとえ遺言で特定の相続人にすべての財産を相続するという内容が記されていたとしても、この遺留分の範囲内で財産を請求することができます。

    つまり、遺言で不条理な相続内容が書かれていても、相続人に最低限の相続分を受け取る権利を認めた相続制度をいいます。

  2. (2)遺留分と法定相続分の違い

    遺留分と似たような制度に法定相続分というものがあります。法定相続分とは、民法によって定められた、それぞれの相続人に認められる遺産相続の割合のことをいいます。遺言がない場合には、この法定相続分が遺産相続の目安となります。

    一方遺留分は、不公平な遺言や贈与などが行われた場合に、多くの遺産を受け取った相手に対して、自分の正当な相続分を請求するものです。

  3. (3)遺留分の権利を持つ人は誰か?

    遺留分の権利を持つ人は、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人です。

    具体的には、被相続人の配偶者・直系卑属(子ども)・直系尊属(両親)です。直系尊属・直系卑属とは、簡単にいうと亡くなった方より世代が上の血族を尊属、下の世代を卑属といいます。

    また、妊娠中のおなかの中の赤ちゃんも生まれてくれば遺留分権利者になります。加えて、両親が亡くなった孫も、代襲相続人として遺留分を有します。代襲相続とは、相続人となるはずだった人が死亡している場合に、直系卑属が代わりに相続人になる制度をいいます。

  4. (4)遺留分の計算の対象となる財産

    遺留分は、相続財産や被相続人の生前の行動によって、その計算の対象となるものが異なります。

    民法上、下記の4つが遺留分として計算の対象になる財産です(民法1043条、1044条)。

    • 被相続人が相続開始時に有していた財産
    • 相続が開始される前の1年間で被相続人が相続人ではない人に対して贈与した財産
    • 相続が開始される前の10年間で被相続人が相続人に贈与した財産
    • 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていて贈与した財産


    これらの規定からみると、被相続人が所有していた財産のほかに、生前に贈与した財産も遺留分の対象となることがわかります。

    具体的には、以下の贈与が遺留分の対象となります。

    1. ① 遺贈(遺言による贈与)
    2. ② 死因贈与(死亡による贈与)
    3. ③ 死亡から起算して1年前までの生前贈与
    4. ④ 死亡から起算して10年前までの相続人に対する「特別授益」にあたる生前贈与
    5. ⑤ 遺留分を侵害すると知って行われた贈与


    ④の「特別授益」とは、特定の相続人だけが受け取った利益のことをいいます。たとえば、結婚費用や生活のための資金や多額の保険金なども、この特別授益にあたります。

  5. (5)遺留分は放棄することができる

    遺留分も相続と同じように放棄することができます。遺留分の放棄に特別な手続きは必要ありません。他の相続人に遺留分を放棄する旨伝え、念書を書けば、遺留分を放棄することができます。

    もっとも、被相続人が亡くなる前、つまり相続を開始する前に遺留分を放棄したい場合には、家庭裁判所の許可が必要です。また、複数の相続人がいて、そのうちの一人が遺留分を放棄したとしても、他の遺留分権利者の遺留分が増えることにはなりません。

2、遺留分を請求できる割合

遺留分で請求できる割合は、相続人が直系卑属(子ども)か直系尊属(両親)かによって異なります。実際にどのくらい遺留分を請求できるか、みていきましょう。

  1. (1)遺留分は法定相続分の2分の1

    遺留分の割合は、配偶者や子どもが相続人の場合には、2分の1です。一方、両親である直系尊属のみが相続人である場合には3分の1になります。この遺留分に各相続人の法定相続分を積算することによって、個々人の遺留分額を計算することができます。

    たとえば、被相続人が亡くなり、1000万円の相続財産が見つかったと仮定します。このとき、配偶者と3人の子が相続した場合、下記のような遺留分が認められます。

    相続人 法定相続分 遺留分×法定相続分 対象財産×遺留分
    配偶者 1/2 1/2×1/2=1/4 1000万円×1/4=250万円
    第1子 1/6 1/2×1/6=1/12 1000万円×1/12=約83万円
    第2子 1/6 1/2×1/6=1/12 1000万円×1/12=約83万円
    第3子 1/6 1/2×1/6=1/12 1000万円×1/12=約83万円


    このように “対象となる財産×(遺留分×法定相続分)” によって請求できる遺留分を求めることができます。

  2. (2)遺留分の割合の一覧

    その他のケースでの遺留分は下記の通りになります。

    相続人の構成 全員の遺留分割 相続人それぞれの遺留分割合
    配偶者 子ども 父母 兄妹
    配偶者のみ 1/2 1/2
    配偶者+子ども 1/2 1/4 1/4
    配偶者+父母 1/2 1/3 1/6
    配偶者+兄妹 1/2 1/2 権利なし
    子どものみ 1/2 1/2
    子ども+父母 1/2 1/2 権利なし
    子ども+兄妹 1/2 1/2 権利なし
    父母のみ 1/3 1/3
    兄妹のみ なし 権利なし


    この中でも注意が必要なのは、父母などの両親がいる場合と兄弟姉妹がいる場合です。兄弟姉妹は、相続人になったとしても遺留分権利者にあたらないため、どのようなケースであっても遺留分の請求することができません。

    また、配偶者と両親が相続人の場合には、両親も遺留分権利者にあたりますが、子どもと両親の組み合わせの場合には、両親は、相続人にあたらないため、遺留分権利者にもなり得ません

3、遺言書があった場合の遺留分はどうなる?

被相続人の死後、遺言書が発見された場合にも遺留分を請求することができるのでしょうか。

  1. (1)遺言書があっても遺留分を請求できる

    結論からいえば、遺言書があったとしても遺留分を請求することができます。たとえ、遺言書に「遺留分を請求は認めない」などの記載があったとしても、遺留分の請求は可能です。

    遺言は、被相続人の意思を尊重して、財産をどのように配分するか決定できる制度です。他方で、遺留分は残された家族に最低限度の相続財産を保障する制度です。そのため、遺言に基づき財産を配分しつつも、配分しすぎた分については遺留分として他の相続人に平等になるよう請求が認められています。

    また、遺言があった場合には、相続財産全体が遺留分の計算の対象となり、生前贈与や特別授益も対象に遺留分の実際の金額を計算することになります。たとえば、「妻にすべての財産を相続する」という遺言書があるが、子どもが一人いた場合には、子どもは、相続財産の1/4の金額を被相続人の妻に遺留分侵害額請求できることになります。

  2. (2)遺留分を侵害する内容の遺言書が見つかった場合

    遺留分を侵害する内容の遺言書が見つかった場合、「こんな遺言は無効だ!」と思うかもしれません。しかし、遺留分を侵害する内容の遺言書であっても、遺言書としては有効です。

    そのため、遺言書を無効なものだと思い、勝手に破棄してしまうと相続欠格として相続人としての地位を失う可能性があります。内容に不満がある遺言であったとしても破棄や破損はせず、弁護士に相談して対処法がないか聞いてみましょう。

4、遺留分を侵害された場合の対処法と注意点

遺留分が侵害されていた場合には、遺留分侵害額請求をする必要があります。遺留分侵害額請求とは、遺留分に相当する金額を“お金”で返還してもらう手続きです。

遺留分の請求をするためには、
① 内容証明郵便を送る
② 直接交渉をする
③ 家庭裁判所で調停手続きをする>
④ 裁判を起こす
という流れになります。
また、遺留分侵害額請求をするためには、下記の3つを注意しなければなりません。

  1. (1)遺留分侵害を知ってから1年以内にしなければならない

    遺留分侵害額請求は、相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内にしなければなりません

    もっとも、被相続人が死亡し、自分が相続人になったことを知っていたものの、遺留分が侵害されていることに気がつかないケースもあります。たとえば、被相続人の親が亡くなってから数年後に、兄弟姉妹の家の頭金を払っていたことを知った場合などです。

    この場合には、相続の事実については認識していたけれども、兄弟姉妹に対する特別授益があり、遺留分侵害があったことについては知らなかったといえます。このようなケースでは、相続開始から1年経過していたとしても遺留分侵害額請求できる可能性があるため、弁護士に相談してみましょう。

  2. (2)相続開始から10年経過すると請求できない

    相続開始から10年経過してしまうと遺留分侵害額請求できなくなります。相続開始については知っていたが遺留分侵害については知らなかったケースであっても、相続開始から10年たってしまうと請求できません。そのため、もし思い当たることがあれば、調査も含めて少しでも早く弁護士に相談することをおすすめします。

  3. (3)遺留分侵害額請求ができない人

    遺留分権利者であっても、以下の3つのケースでは遺留分侵害額請求ができません。

    1. ① 相続欠格
      相続欠格とは、相続制度の根幹を破壊するような悪質な行為をした者に対して、相続資格をはく奪する法律上の制度をいいます。たとえば、被相続人を殺した場合や被相続人の遺言書を偽造した場合にこの相続欠格にあたります。

    2. ② 廃除
      廃除とは、被相続人が死亡する前に、被相続人の請求によって、家庭裁判所が著しい非行行為などをした相続人になる可能性のある者の相続資格をはく奪する制度です。たとえば、被相続人を虐待した、重大な侮辱行為などをした場合に、被相続人が家庭裁判所に請求することで相続資格がはく奪される可能性があります。

    3. ③ 相続放棄
      相続放棄とは、相続開始から3か月以内に被相続人の権利や義務のすべてを相続しない意思表示をすることです。この相続放棄は家庭裁判所に対して伝える必要があります。相続放棄後は相続人としての権利を失うため、原則として、遺留分の請求はできないことになっています。

5、まとめ

自分が遺留分権利者かどうか、遺留分をいくら請求できるのかなどを適切に判断することはもちろん、相続の時点で遺留分の存在そのものに気づくことも簡単ではありません。そのため、他の相続人だけ優遇されていた、被相続人が寄付していた、など後から事実が出てくることもあります。

そのようなときには、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスまでご相談ください。遺産相続や遺留分侵害額請求の実績がある弁護士が、ご事情をヒアリングし、適切なアドバイスをさせていただきます。相続にまつわるお悩みや疑問は、まずは当事務所にご相談ください。

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