「症状固定」は誰が判断するの? 注意点を弁護士が解説
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令和2年中には、滋賀県内で2893件の交通事故が発生しています。これらの交通事故で49名の方が亡くなり3555名の方が負傷しています。
交通事故で負傷した場合には病院で治療を受けることになりますが、治療中に事故の加害者側の保険会社から「症状固定の時期」を提案されることがあります。
しかし「症状固定」のタイミングの判断には、重要な注意すべき点があります。
本コラムでは、「症状固定」は誰が判断するのかということや「症状固定」の注意点についてベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が解説していきます。
1、症状固定とは?
症状固定とは、交通事故で負ったケガの治療を続けても、これ以上症状の改善が見込めないと判断される時期をいいます。症状固定は、治療費や休業損害などの支払い期間を区分するためにある損害賠償実務上の概念です。
交通事故による怪我の治療費や休業損害などは、加害者側に損害賠償として請求できます。
しかし請求できる治療費や休業損害などは、症状固定前のものに限られます。
症状固定後は、後遺障害等級認定を得て等級に応じた後遺障害慰謝料や逸失利益を損害賠償として請求することになります。
2、症状固定は誰が判断するのか?
症状固定は、原則として「医師」が判断します。
交通事故の被害者になってしまった場合には、通常加害者が加入する任意保険の保険会社から損害賠償である示談金の支払いを受けます。
相手方保険会社は、最終的な示談金を支払う前に、被害者の方が治療を受けている病院に直接治療費を支払ってくれるケースも多いです。
治療が一定期間におよんだ場合、相手方の保険会社に「そろそろ症状固定の時期なので治療費を打ち切ります」などと言われることもあります。
しかし症状固定は、「保険会社」が判断するものではありません。
そのため治療の継続の必要性がある場合には、保険会社に治療費を打ち切ると言われたとしても、医師が症状固定と判断するまで治療を継続する必要があります。
3、症状固定と判断されるタイミングはいつなのか?
症状固定と判断されるタイミングは、それぞれのケースに応じて異なります。
これは、交通事故によって受けた負傷の程度や治療の効果には、個人差があるためです。治療を行う中でこれ以上の回復が見込めないと医師に判断されるような状況になった場合には、症状固定の時期について医師と相談する必要があるといえるでしょう。
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(1)むち打ちの症状固定のタイミング
むち打ちとは、事故の衝撃で首などに損傷が生じたことによって発生する症状のことをいいます。一般的には、「頸椎(けいつい)捻挫」などと診断名が付きます。むち打ちは画像などで症状を明確に判断することが難しく、治療に必要な期間も個人差が大きいものです。
一般的には「継続してリハビリを行っても効果が感じられなくなった」「痛みやしびれが軽減しない」「痛みやしびれが軽減してもすぐに元に戻ってしまう」といった状況になれば、症状固定の時期を判断するタイミングであるといえるでしょう。
むち打ちの症状で後遺障害等級認定を受けるためには、基本的には6か月以上通院することが必要になります。
また通院の頻度も重要になるので、治療を受ける際には通院頻度にも注意する必要があります。 -
(2)骨折の症状固定のタイミング
交通事故によって骨折してしまった場合でも、骨折した部位や程度などの違いによって治療に必要な期間は変わります。
一般的には、骨が癒合してリハビリにより機能が回復した時期、またはこれ以上の回復が見込めない時期が症状固定の時期とされることが多いものです。
しかし骨折は長い治療期間が必要になる場合も多く、可動域制限の症状が残るなどさまざまな影響が残る可能性があります。
そのためそれぞれのケースに応じて総合的に判断されて、症状固定の時期が決まります。
4、症状固定の注意点
症状固定については、次のような点を注意する必要があります。
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(1)保険会社の治療費打ち切りに安易に応じないように注意
これまで説明してきたように、事故の相手方保険会社は症状固定を判断できるわけではありません。
そのため相手方保険会社が「症状固定にして治療費を打ち切る」と言ってきた場合でも、治療継続の必要がある場合には安易に応じないように注意しましょう。
治療の必要があるのにもかかわらず、治療費が支払われないことを理由に通院を止めてしまったりすると、適切な後遺障害等級認定を受けられない可能性が高くなります。
また治療を継続しなかったことによる怪我の状態の悪化も懸念されます。
症状固定は基本的に医師が判断するものと理解し、保険会社との治療期間の話し合いがうまくいかなければ弁護士に相談するなど適切に対処することが大切です。 -
(2)治療費や休業損害などは支払われなくなるので注意
症状固定後は、治療費や休業損害などは支払われなくなります。
たとえ症状固定後に再度治療が必要になったとしても、原則として治療費を相手方保険会社に請求することはできません。
したがって、容易に症状固定に納得してしまわないように注意が必要です。
5、症状固定と判断されたらどうすればよいか?
症状固定と判断された場合には、症状固定時に残る症状について、適切な後遺障害等級認定を獲得するために動くことになります。
具体的には、医師が作成する後遺障害診断書やその他の必要書類を収集して申請します。後遺障害等級認定を受けられた場合には、相手側保険会社に「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」を請求できます。
「後遺障害慰謝料」とは、症状固定後も残った症状を後遺障害として認定を受けた場合に、その後遺障害によって受ける精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。「後遺障害慰謝料」は、認定された後遺障害等級に応じて計算されます。
「逸失利益」とは、後遺障害がなければ得られたであろう収入など補塡(ほてん)するものです。
後遺障害等級認定を受けて「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」を請求できるかどうかで、示談金の金額は大きく変わることになります。
6、後遺障害等級認定について
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(1)後遺障害等級認定とは
後遺障害等級認定とは、症状固定後も残る症状について傷害の程度に応じた1級から14級の認定を受けることです。
損害保険料率算出機構という組織の自動車損害賠償責任保険(自賠責)損害調査事務所が、申請を受けて審査を行います。
原則として書面審査によって行われるので、どのような内容の書類を提出するかが認定の可否や等級を左右すると言ってもいいでしょう。 -
(2)申請方法
後遺障害等級認定の申請方法には、「事前認定」と「被害者請求」の2通りの方法があります。
「事前認定」とは、相手方保険会社が申請手続きを行ってくれる方法です。
「事前認定」は自ら申請手続きをしなくてもよいので、手間がかからず負担が少ないというメリットがあります。
しかし、そもそも相手方保険会社は、認定がなされて示談金が大幅に上がれば自社の支出が増えて困る立場にあります。そのため、被害者の方が後遺症にどんなに苦しんでいたとしても、相手方保険会社の認定を獲得するための積極的な姿勢は望めません。
また被害者の方の関与が少ない方法であるがゆえに、結果が出ても適切な結果であるかどうかも判断できず不利益を被る可能性も高いといえます。
一方「被害者請求」は、被害者の方がご自身で申請する方法です。
「被害者請求」は、申請のための必要書類などを収集しなければならないので手間がかかることは確かです。しかし、原則として書面審査で行う認定に対して、提出書類を工夫することができるので認定の可能性を高めることができます。
また認定の結果に対しても、ご自身が関与した分だけ理解も深まっているのでその結果が妥当なものかどうかも判断できます。そして認定に関する結果に納得できない場合には、異議申し立てを行い適正な結果を求められることになります。 -
(3)適切な後遺障害等級認定を得るためには
後遺障害等級認定は、「被害者請求」の方法で行うことが適切な認定を受けられる可能性を高めます。しかし、ご自身でどのような書類を提出すれば認定につながるかは通常分からないものでしょう。
そういった場合には、弁護士に依頼することがおすすめです。
弁護士は、後遺障害等級認定に関する豊富な知識と経験がありどのような書類を収集してどのような記載があれば適切な認定を受けられるかを熟知しています。
弁護士に依頼した場合には、申請のための提出書類の収集も行うなどのサポートもできるので「被害者請求」でかかるご負担を軽減することができるでしょう。
また、早期から弁護士に相談した場合には、後遺障害等級認定を見込んだ治療内容や検査内容のアドバイスを行うなど戦略的に認定の獲得につなげることができます。
7、まとめ
本コラムでは、「症状固定」は誰が判断するのかということや「症状固定」の注意点について解説していきました。
ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士は、症状固定に関する保険会社との交渉を代わって行い後遺障害等級認定を得るためのサポートを行います。
交通事故の被害者としてお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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