交通事故の被害者請求の方法は? 請求の流れとメリットを解説
- 慰謝料・損害賠償
- 交通事故
- 被害者請求
滋賀県警察の発表によると、2019年に滋賀県内で発生した交通事故発生件数は3647件で、亡くなった方は57人、負傷者数は4,592人でした。全国平均(8111件)と比較して低いといえる滋賀県の交通事故発生件数ですが、誰しもが交通事故の被害者になり得るのです。
交通事故の被害に遭った場合は、通常であれば加害者側の任意保険会社と示談交渉を行います。しかし、なんらかの理由によって加害者の任意保険を使えない、使わない場合には加害者が加入している自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の保険会社に被害者請求を行わなければなりません。
そこで本記事では、ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスの弁護士が、被害者請求の概要や進め方、受け取ることができる賠償金額について解説します。
1、被害者請求とは
まずは、被害者請求の意味を確認しておきましょう。
-
(1)被害者請求とは
被害者請求とは、自賠責保険会社に対して、交通事故の被害者が治療費や慰謝料等の賠償金を請求する手続きのことをいいます。任意保険のように窓口で治療費を支払う必要がない「一括対応」ができませんし、書類も全て自分で用意をしなければならないので、被害者にとっては決して簡単な手続きではありません。
冒頭でも説明したように、交通事故の被害に遭って怪我をした場合は、加害者、もしくは被害者の任意保険に治療費や慰謝料、休業損害等を請求するのが一般的です。
しかし、以下のような理由から任意保険を使えない、もしくは使わないケースもあります。その場合に行うのが被害者請求です。- ① 事故の加害者が任意保険に加入していない「無保険者」だった
- ② 加害者が任意保険を使いたくないといい、被害者も人身傷害保険に加入していなかった
- ③ 任意保険会社を通じて後遺障害請求を行うと等級認定が受けられない可能性がある
これらの理由のうち、①と②は、「任意保険を使いたいけど使うことができないから被害者請求を行う」という状態です。③は、「任意保険は使えるけど後遺障害の等級認定を受けたいから被害者請求を行う」という状態になります。
-
(2)後遺障害の事前認定とは?
事前認定とは、任意保険会社が、被害者が後遺障害に該当するかどうかを自賠責損害調査事務所に確認する手続きです。事故による受傷で後遺症がもたらされた場合は、通常の慰謝料とは別に、後遺障害の慰謝料や逸失利益といった賠償金を受け取ることができます。そのためには、自動車損害賠償保障法施行令で定められている後遺障害等級の認定を受けなければなりません。後遺障害等級は第1級から14級まで定められており、それを確認するのが事前認定という手続きなのです。
事前認定は任意保険会社が必要な診断書や画像データ、書類等を用意して手続きを行うため、被害者はほとんど何もすることなく後遺障害に該当するかどうかを知ることができます。
事前認定は、任意保険会社による手続きですので、任意保険を使えない方は行うことはできません。その場合は、後遺障害についても、被害者請求を行うことになります。
2、被害者請求を行うべき理由とは
次に、被害者請求を行うべき状況とその理由について解説します。
-
(1)後遺障害が生じていない場合は被害者請求のメリットは少ない
原則として、加害者の任意保険が使える場合に、後遺障害が生じ得ない事故では、被害者請求を行うメリットはほとんどありません。手続きは煩雑ですし、窓口で治療費を立て替えなければならないので、金銭的負担も大きい傾向にあります。
また、後遺障害がなければ被害者請求を行っても、受け取ることができる保険金は変わりません。むしろ、弁護士を通じて任意保険会社に請求したほうが、裁判基準の慰謝料が適用されるため、慰謝料が高額になる可能性が高いです。自賠責保険から支払われる賠償金の上限は低く、慰謝料の算定基準ももっとも低いため、治療期間によっては2倍から3倍の差がつくこともあります。【自賠責保険の支払限度額】- 傷害による損害:120万円(被害者1名につき)
- 後遺障害による損害(神経系統の機能や精神・胸腹部臓器への著しい障害で、介護を要する障害)、常時介護が必要な場合:4000万円(第1級)(被害者1名につき)
- 臨時介護を要する場合:3000万円(第2級)(被害者1名につき)
- 上記以外の後遺障害:3000万円(第1級)〜75万円(第14級)(被害者1名につき)
- 死亡による損害:3000万円(被害者1名につき)
-
(2)後遺障害等級認定を受けたい場合は被害者請求が有効
後遺障害が生じている可能性があり、任意保険会社と被害者が弁護士を通さずに交渉している場合は、後遺障害の等級認定が成功する確率を高める手段として、被害者請求が有効です。
後遺障害等級の認定を受ける方法のひとつである事前認定は、前述したように任意保険会社が主導で行う手続きです。加害者の任意保険で賠償を受けている場合は、加害者サイドが後遺障害の事前認定手続きを行うということになります。
任意保険会社の担当者は親身になって手続きをしてくれることが多いものの、必ずしも被害者のために最善の手続きを行うとは限りません。事前認定で等級を認定してもらうための検査の手配といった手続きは難しいでしょう。しかし、被害者請求であれば後遺障害等級の認定を受けるための最善の手続きを行うことができます。
3、被害者請求の流れと弁護士へ依頼すべき理由
では、自賠責保険の被害者請求の大まかな流れと、弁護士に依頼すべき理由について解説します。
-
(1)被害者請求の流れ
自賠責保険の被害者請求には最低限となる以下の書類が必要です。
完治もしくは症状固定の診断を受けたら、治療期間中のこれらの書類を全て用意して保険会社に送付します。送付を受けた保険会社は、事故状況や怪我の様子などを書類や調査で確認した上で問題がなければ保険金を支払います。また、後遺障害だけでなく傷害部分も被害者請求を行う場合は、全ての治療費や薬代等を立て替えて支払っておかなければなりません。- 自動車損害賠償責任保険支払請求書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診断書
- 診療報酬明細書
- 印鑑証明書
- 損害後遺障害診断書
- レントゲン写真等
- 休業損害証明書
- 付添看護自認書
-
(2)弁護士に依頼すべき理由
被害者請求は、被害者自らでも行うことができます。しかし、書類の準備や手続きなどの手間がかかる、あるいは後遺障害等級が認められにくい等のデメリットも存在します。それらを解消できる選択のひとつが弁護士への依頼です。弁護士への依頼によって以下のような効果が期待できます。
- 書類の準備や手続きの手間が省ける 弁護士に自賠責保険の被害者請求を依頼することで、書類の手配や作成の負担が大幅に軽減します。自賠責保険の必要書類は、病院等の医療機関、勤務先、交通安全センター等から取り寄せなければならず、送付依頼だけで時間がかかります。弁護士に依頼することで、手間と時間をかけず書類を集めることができるのが大きなメリットです。
- 慰謝料を増額できる可能性がある 加害者が任意保険に加入しており、任意保険会社に慰謝料等の賠償金を請求できる事故であれば、弁護士に依頼することで受け取ることができる慰謝料が2倍から3倍に増額する可能性があります。
- 後遺障害が認められやすくなる 後遺障害等級の認定を受けるために被害者請求を行う場合、弁護士に依頼すれば認定される可能性が高まります。弁護士は、後遺障害等級の認定を受けるために必要な書類や検査等を把握しています。被害者が直接行うよりも、より後遺障害が認められやすい請求書類を準備・作成することができるのです。
- 精神的負担が軽減する 自賠責保険会社への被害者請求は、交通事故によって心身ともにダメージを受けている被害者にとっては大きな負担となります。被害者請求を弁護士に依頼することで、被害者は治療に専念できて、書類手配や作成による精神的な負担が軽減します。
自賠責保険の被害者請求だけであれば、自賠責保険の上限額以内の場合は、自賠責保険基準の慰謝料しか受け取ることができません。しかし、任意保険に請求できるのであれば、弁護士が裁判基準での慰謝料を請求可能です。
4、弁護士費用はどれくらいかかるのか
では、被害者請求を弁護士に依頼する場合の費用はどの程度かかるのでしょうか。費用の目安について確認しておきましょう。
-
(1)弁護士費用の相場
交通事故の示談交渉を弁護士に依頼する場合の費用は法律事務所によって異なります。大まかな相場としては、報酬金が損害賠償額の10%程度+20万円とされているケースが多いようです。
-
(2)弁護士費用特約があれば自己負担不要
弁護士費用特約とは、自動車保険や火災保険に任意でつけることができる、弁護士費用を補償する特約です。
弁護士費用特約の上限額は、任意保険会社の条件によって異なりますが、弁護士費用は約300万円、法律相談費用は10万円程度まで補償するという保険会社が多いようです。弁護士費用特約を利用すれば、弁護士費用を自己負担する必要はほとんどありません。
5、被害者請求の注意点
最後に被害者請求を行う際の注意点を解説します。
-
(1)限度額を超えた賠償は任意保険会社との交渉が必要
被害者請求において請求可能な損害賠償金には上限額があります。限度額の超過分は、自賠責の保険金支払い終了後に任意保険会社との賠償協議を続行し、支払い交渉していく必要があります。
-
(2)被害者請求には時効がある
自賠責保険の被害者請求には時効が定められています。そのため、時効を過ぎてしまうと被害者請求ができなくなってしまいます。
傷害の場合は事故発生日の翌日から3年、後遺障害は症状固定日の翌日から3年、死亡は死亡の翌日から3年と定められています。自賠責保険会社とやりとりを続けている場合は、時効が成立する可能性は低いです。しかし、手続きをせずに放置しておくと所定の期間が到来して、保険会社が「時効の援用」を行うことで、時効が成立してしまいます。
6、まとめ
自賠責保険の被害者請求手続きは、交通事故の被害者にとっては非常に大きな負担となるものです。なんらかの理由で被害者請求を行わなければならない場合は、弁護士に手続きを一任するのが得策です。
ベリーベスト法律事務所 滋賀草津オフィスでは、被害者請求の手続きについてのご依頼を広く受け付けておりますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています